焼入れ時の質量効果を改善するにはどうすればいいですか?

 詳細は製品形状や材質によって異なると思いますが,ここではねずみ鋳鉄/球場黒鉛鋳鉄での一般的な知見について回答します.

 熱処理における影響因子は大きく2つあります.一つは材料の性質で,いわゆる「焼きの入り易さ」.もう一つは熱の出し入れで,加熱および冷却の温度・保持時間・速度です.

 さて,今回のご質問は「質量効果で改善」ですので,焼入れ性を高めることが主眼となります.まず材料の性質については化学組成でのコントロールが一般的で,Mn,Cr,Moなどを添加することで,CCT曲線におけるパーライト/ベイナイトノーズが長時間側に後退し,マルテンサイト組織を得やすくなります.一方,温度に関しては冷却速度を高めることが第一で,冷却媒体の選定が重要になります.例えば水を用いる場合,水蒸気膜の発生が冷却を遅らせることがあるので,混合液や他の冷媒を用いることも一手です.また,加熱温度も注意が必要で,高温すぎるとオーステナイト中のC量が多くなるため安定的となり,マルテンサイト変態において不利となります.焼入れ不足が生じる場合,常温で残留オーステナイトが存在するケースがありますが,鋼材ではサブゼロ処理(深冷処理)やショットピーニングでマルテンサイトに変態させることもありますので参考になさってください.

(『鋳造工学』93巻7号掲載)