球状化率80%以上が球状黒鉛鋳鉄と規定されますが、その範囲内で機械的,物理的性質に差があるのでしょうか.

一般に同じ基地組織を有する鋳鉄において黒鉛粒の形状は,引張強さ,伸び,ヤング率等の機械的性質に影響を及ぼすといわれており,球状化率の低下と共に機械的性質も低下する傾向が見られます.鋳鉄では最大荷重近傍において,基地部の最大応力が黒鉛粒の端部ではなく,黒鉛と黒鉛の間の基地部に生じます.黒鉛球状化率が著しく低下した場合,片状黒鉛や粒状の黒鉛が多く存在することで黒鉛と黒鉛の間の基地部の連続性の低下,すなわち有効断面積が低下して,引張強さや伸びが低下します.しかし,球状黒鉛鋳鉄と定義される球状化率80%以上では,この有効断面積の低下の影響は小さく,引張強さや伸びの大きな変化はみられません.ヤング率も同様に球状黒鉛鋳鉄と定義される球状化率80%以上では変化は小さいのですが,球状化率70%以下になると低下の傾向が現れてきます.これは,黒鉛の片状化による弾性応力集中の増大,ひずみの増加の結果と考えられています.回答者の経験では,疲労限度や衝撃値も球状化率が80%以上では,ほとんど変化は見られませんでした.

また,基地組織が延性特性を有するフェライトの鋳鉄に比べて,パーライト基地の場合には,基地部の塑性変形が少ない状態で破断するので,黒鉛の形状の影響が大きくなると言われています.しかし,前述した様に球状化率が80%以上では,機械的性質の変化はあまり現れてこないようです.それ以下の球状化率になると,機械的性質に及ぼす球状化率の影響は基地組織の違いによって低下の程度が異なる結果も報告されていますので注意して下さい.