球状黒鉛鋳鉄で引張強さを高くする元素に,Si,Cu,Sn,Ni,Mn等がありますが, それぞれの引張強さが高くなるメカニズムを教えてください.

 球状黒鉛鋳鉄の引張強さは,基地(フェライト,パーライト,オーステナイト,マルテンサイト等)の特性に大きく依存し,パーライト量が増加すると,引張強さは増加します.
 Siは,強い黒鉛化促進元素であり,フェライト量が増加し,引張強さは減少しますが,Si13~15%含む鋳鉄では,基地組織はSiを多量に固溶したシリコフェライトとなり,硬く脆くなります.
 Cuは,弱い黒鉛化促進元素であり,決してパーライト促進元素とは言えませんが,基地中に固溶し,オーステナイト変態に影響してパーライトの析出を助長し,機械的性質は向上します.例えば,Cuと併用して添加されたMnを,共析セメンタイト中へ一層濃化される効果があります.
 Snは,パーライト促進元素であり,黒鉛近傍のオーステナイト中に富化し,Cの拡散に対する障害物として作用することによってパーライト化を促進します.
 Niは,黒鉛化促進元素であり,鋳鉄中で炭化物を生成せずセメンタイトにも固溶しないので,その全量が基地中に固溶して基地組織に大きな影響を及ぼします.Ni4%以下ではパーライト鋳鉄に,Ni4~8%では,マルテンサイト(+ベイナイト)鋳鉄,Ni12%以上ではオーステナイト鋳鉄になります.
 Mnは,Sと結合する量以上になるとフェライトの生成を阻止し,パーライト化を促進します.
参考文献:新版 鋳鉄の材質,日本鋳造工学会(2014)23-25

(『鋳造工学』95巻11号掲載)