球状黒鉛鋳鉄で, 引けの抑制に効くのは共晶凝固時の黒鉛晶出であり, 初晶の黒鉛は引け抑制効果が少ないのはなぜですか?

 下の図1と2に示すように, ひけ巣は共晶成分で最も少なくなり, 過共晶では再び増します.  過共晶成分では, 状態図からも分かるように, 液相から直接初晶の球状黒鉛が晶出します.    
 その後, 温度が下がるにつれてこの黒鉛は成長して大きくなり,ある大きさ以上になると,浮力により上型方向に浮上し,カーボンフローテーション欠陥となります(カーボンフローテーションしていない下部の部分は共晶成分です).デンドライトの林の無い中で晶出し, 成長する黒鉛は, 黒鉛の晶出と成長による膨張力がそのまま鋳型壁を押しやり,型張りとなるため, 初晶の黒鉛はひけ巣を増すことになります(Bi系接種材で粒数が増加する割に引け巣が減らないのも, 同様な事が原因と考えられます).
 その後の,共晶で出る黒鉛はデンドライトが成長した後のデンドライト間のカーボン濃度が高くなった所から晶出します.この黒鉛はデンドライトの林に囲まれているので,黒鉛膨張力が鋳型壁を押す力は初晶の黒鉛よりは弱くなります.「初晶の黒鉛が引け抑制効果が少ない」理由はこのような事が原因と考えられます.FC材がFCDよりも引けない理由も,デンドライトの量とスキン凝固かマッシー凝固かが関係していると考えられます. 
 ちなみに,球状黒鉛のサイズは①球のどの断面で切断したかと,②どの段階で晶出した黒鉛かの2つの要素で決まります.比較的大きな黒鉛は,凝固の初期で晶出し長い時間成長したものが多く,小さめの黒鉛は凝固の後期で晶出し成長した物とみる事が出来ます. 
そのような目で組織写真を見ると,凝固の過程が想像できて,結構楽しい気分になる事が出来ます.

図1 C量と内ひけ巣体積率の関係(CE=C+1/3Si, CEL=C+0.23Si)

図2 C量と内ひけ巣の関係(CE=C+1/3Si, CEL=C+0.23Si)

 

 

 

 

 

 

(『鋳造工学』95巻5号掲載)