球状黒鉛鋳鉄の製造において,球状化剤や接種剤の効果を活かすには,どのタイミングでどのような方法で加えるといいのですか?

 健全な球状黒鉛鋳鉄品を製造するのに必須な溶湯処理技術の基本に関する良い質問ですが,製造条件により正解がいくつもあり回答者泣かせな質問でもあります.

 さて,結論から言えば,①処理剤の効果を活かすには,「処理剤に最適な処理方法を選択する」こと.➁タイミングは,「処理後すぐに鋳型内の鋳物キャビティに流入する直前で」,後述の「フェイディング時間なく」という事になりますが,以下にもう少し詳しく説明します.

 

処理剤に最適な処理方法
 処理剤と処理方法は,ほぼ一対の関係にあります.FeSiMg合金系のかち割品は,サンドイッチ法などの置き注ぎ処理に,Mgコアドワイヤーはワイヤーフィーダー装置と蓋付き取鍋,金属Mgは反転取鍋によるコンバータ法,圧力添加法やプランジャー法で,インモールド法はFeSiMg系合金ですが溶けやすくノロの発生が少ない化学組成で,1~4mm程度の細粒品です.接種剤も同様ですが,使用目的(機械的性質の改善,チルの低減など)に応じた化学成分のものを選択します.

 

【処理の最適なタイミング】
 凝固時に晶出する黒鉛を球状にする球状化処理も,球状黒鉛粒数の増加,凝固組織の微細化,肉厚感度の鈍化,エッジ・コーナー・薄肉部のチル化抑制などが目的で実施される接種処理もその効果は保持時間とともに徐々に薄れて(フェイディング)しまい,期待している効果が得られなくなります.それ故,現場では効果が持続する時間を「フェイディング時間」として管理し,その時間内にできる限り速やかに鋳込みを終了させる作業を実践しています.

 処理方法に関して,処理後の溶湯が鋳型内の鋳物キャビティに充填されるまでの時間は,球状化処理では鋳型内法(インモールド法),次にサンドイッチ法,コアドワイヤー法,タンディッシュ法,プランジャー法の順,接種処理でも鋳型内法が一番で,続いて注湯流法(ストリーム法),注湯取鍋内の置き注ぎ法(取鍋接種法),同時接種法(球状化処理取鍋内接種法)の順で長くなります.

 

【溶湯処理剤の効果の確認】
 溶湯処理剤の効果の確認は,処理剤,処理方法,添加量,溶湯温度,処理取鍋の形状及び作業の巧拙などにより異なります.チル試験,熱分析,顕微鏡組織観察(黒鉛球状化率,黒鉛粒数,フェライト・パーライト率,遊離セメンタイトなど),引張試験(引張強さ,0.2%耐力,伸びなど),硬さ試験そして化学成分分析(Si%,残留Mg%,残留S%など),さらに超音波伝搬速度や電磁気信号などで確かめることが必要です.

 すなわち,処理剤と処理方法は一対であり,間違えて使用すると不具合の原因となります.溶湯処理剤も薬です.鋳物の性状条件に合致した用法と用量を守って使用することが重要です.

(『鋳造工学』93巻3号掲載)