球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数や球状化率を測定する際に,15μm以下の小さい黒鉛は無視することになっています(JIS).15μmに決めた根拠は?

球状黒鉛鋳鉄について日本独自の黒鉛形状分類法と黒鉛球状化率の判定方法を定めた

記録が「鋳物40巻(1968)P296」に紹介されています.当時の日本鋳物協会特殊鋳鉄部会の10数回の委員会による審議の結果作成されたものです.球状化率算出法を前出の記録から引用して記述すると次のとおりです.“試料の任意の場所について手札版またはこれに順ずる大きさの倍率100の顕微鏡組織写真をつくり,写真面の両対角線をそれぞれ中心として巾3mmの直線を引く.これら両対角線帯の上に少しでも乗る黒鉛の全数が10個以上を対象として数を算出する.この場合2mm以下(実際20μm)の粒はかぞえない.本判定法では顕微鏡に現れる黒鉛粒の形態を6種類に分類し,それぞれに形状係数を与えており,各種の粒数に形状係数を乗じてその総和から球状化率を算出する.試料被検部における5視野について平均値で表す”と紹介されています.

 特殊鋳鉄部会では各委員が多くの球状黒鉛鋳鉄の試料を作製し,その球状化率を求めると同時に機械的性質を実験しています.その結果,球状化率が50%以下においては球状化率と機械的性質の関係には多くのばらつきがみられたが,球状化率50%以上では引張強さ及び伸びのいずれも有意な関係がみられたと報告しています.

 球状化率を求める作業の迅速性と球状化率の正確性の両面から合理的な方法として,微小黒鉛や介在物を除いて球状化率を算出しても球状化率と引張強さや伸びの関係が有意になることから,黒鉛の大きさの閾値として,当時は20μmを決めて作業したものと推定されます.

 現在の球状黒鉛鋳鉄品JIS G 5502(2001)は対応国際規格ISO 1083と技術的な差異がなく整合されていますが,2001年版においては1.5mm(実際の寸法15μm)以下の黒鉛及び介在物は球状化率の判定の対象としないとされています.とくに薄肉品の場合,黒鉛も小さくなるため,企業によっては独自に小さい黒鉛まで測定の対象にしている場合があります.

 最近では画像解析によって迅速に,また,向上した正確さで測定が可能になり,黒鉛の大きさの閾値も選択できるようになっています.球状黒鉛鋳鉄品によって生産者と使用者間での協定で取り決められることもあるのではないかと考えられます.

(『鋳造工学』90巻8号掲載)