球状黒鉛鋳鉄用Y型供試材(Yブロック)の平行部から切り出した試験片の 機械的性質(引張強さ,伸びや疲労強度)は,切り出す位置で差が出ますか?

鋳鉄の機械的・物理的性質は,黒鉛形状と基地組織に依存しています.球状

黒鉛鋳鉄品の機械的性質は,JIS規格(JISG5502)のY型供試材の平行部であれば,JIS規格(引張強さ,伸び,衝撃値)の範囲ではどの位置から切出してもほぼ同等な特性が得られるでしょう.

とはいえ,「平行部の下部(底付近)では伸びが大きく,上部(押湯側)では引張強さが大きいという傾向がある.」という報告もあります.一度試してみてはいかがですか.

回答者は,Y型供試材の顕微鏡組織は,下部と上部で差があることを経験しています.下部は凝固が速く,そのため黒鉛粒数が多くなり,結果としてフェ ライト基地が多くなります.

一方,上部は凝固が遅いために黒鉛粒数が少なく粒径が大きくなり,含有元素の偏析も強くなっています.すなわちセル境界 は,MnやPなどの元素が強く偏析し相対的にパーライトが増えることになります.いわゆる鋳造という金属加工法に由来する肉厚感度です.このような顕微鏡 組織の違いは,JISの引張強さ(破断強度),耐力,伸び(破断伸び)には,はっきりした影響を及ぼさないが,疲労特性においては多少影響を及ぼすようで す.

一般に疲労強度は静的強度よりも内部の顕微鏡組織や微細な内部きず(ざく巣や点状巣のような)の影響を強く受けことが知られています.するとY型 供試材の上部は,最終凝固部に近いため微細な内びけ巣や微細な点状巣が存在する危険性があります.

さらに,凝固が遅いので黒鉛形状は崩れ粒径が大きくなる 傾向があります.これらは疲労き裂の発生個所のひとつとなるので上部から切出された試験片は疲労強度が低下する可能性があります.