黒鉛はなぜ球状,CV,片状になるのですか?
鋳鉄中に現れる黒鉛は,六方晶系の結晶構造(六角形)です.片状黒鉛は黒鉛結晶のプリズム面方向(六角形の各辺が連なる方向,a軸方向)に成長した黒鉛で,基底面方向(六角形の面,c軸方向)放射線状に積層した黒鉛が球状黒鉛(六角形の皮を継ぎ合わせたサッカーボールのマトリョーシカ)となります.球状黒鉛の生成機構は,次のような説があります.
(1)核説:球状黒鉛晶出のための有効な異質核が存在する.
(2)過冷説:球状黒鉛の生成が過冷度の増大に起因する.
(3)界面エネルギ-説:球状化元素の添加により黒鉛のプリズム面に吸着するS,Oなどの活性不純物元素が取り除かれるため,黒鉛のプリズム面と溶湯間の界面エネルギーが大となり,黒鉛がエネルギー的に安定な基底面方向に成長し球状黒鉛となる.
(4)吸着説:球状化処理により黒鉛表面にMgなどの活性な元素が吸着し,高温における黒鉛の塑性変形能が増大し溶湯圧により球状化すると考える.
(5)転位説:Mgなどの球状化元素が黒鉛基底面の成長先端に吸着してらせん転位を生じ,これがC軸方向への成長を促進し,球状黒鉛となる.
(6)気泡説:球状化剤のMgなどが溶湯中で気泡を形成し,凝固に際して黒鉛は気泡の表面で生成し,隣の黒鉛と接した後,基底面に向かって成長して球状黒鉛になる.
CV黒鉛は,球状化に失敗した時に球状黒鉛鋳鉄に存在していますが,これらの説やCV黒鉛化機構について,詳しく知りたい方は,下記の文献を参考にして下さい.これまでは,鋳型内に注湯された鋳鉄の凝固過程を直接観察することができなかったので,熱解析、凝固組織の観察などから理論的に推測するに過ぎませんでしたが,最近では,SPring-8の放射光を利用した“時間分解,その場観察X線イメージ”による鋳鉄の凝固現象の研究が進んできています.近い将来,鋳鉄の凝固の“その場観察”により黒鉛の生成の様子が明らかにされることでしょう.
<参考文献>日本鋳造工学会編:鋳造工学便覧(丸善)(2002)237,鋳造工学,79(2007)605,鋳物,56(1984)329