FC(ねずみ鋳鉄)に,お酢などを使用して意図的に錆びさせてその錆を磨き,野菜クズなどを炒めて熱し,油を塗る(熱する・油を塗る工程は何度か行う)と,一度錆びさせたことで油の染込みが良くなって錆びにくくなるという効果は期待できるでしょうか?

「錆びにくくなるという効果」とありますので,最初に南部鉄瓶の防錆法について簡単に説明します.南部鉄瓶のお湯が入る内面の防錆は酸化皮膜で,模様のある外面は漆(うるし)の皮膜で防錆しています.内面の酸化皮膜(黒錆,Fe3O4)は鉄瓶を炭火中で800℃程度に加熱して生成させます.外面の皮膜は,炭火中で生成した酸化皮膜をいったん落とした後,黒色鉄瓶の場合は漆と鉄粉を混ぜたものを,茶色鉄瓶の場合は漆と弁柄(ベンガラ:酸化第二鉄)を混ぜたものを400℃程度に熱した鉄瓶に焼き付けて皮膜を生成させます。鉄瓶の表面は細かい凹凸がありますので,防錆膜はこの凹部に入り込み,なかなか落ちません.

 お問い合わせのねずみ鋳鉄では油で防錆効果を期待しているようですが,この素材の表面に細かい凹凸があれば,凹部が油溜まりとなって防錆効果を発揮することが期待されます.錆を油溜まりとして使用する意図が見受けられますが,鉄の錆には鉄瓶などに施されている黒錆(Fe3O4)と湿度のある空気中に放置することで自然発生する赤錆(Fe2O3)があります.赤錆は隙間が多く,鉄そのものを腐食させ,ボロボロにしていく性質を持ちますが,黒錆は緻密で強いのが特徴です.どちらの錆が油溜まりとして効果があるかは試してみないと分かりませんが,黒錆は苛性ソーダなどのアルカリ溶液中に鉄を浸して煮沸するか,鉄瓶の場合ように高温に加熱することで生成されます.

(『鋳造工学』90巻5号掲載)