接種は本当に黒鉛化を促進するのでしょうか?
Fe-G系凝固(共晶Fe3C:チルが無い)した鋳鉄の黒鉛量は,おおよそ凝固時の晶出量(Fe-C二元複平衡状態図のE´点)とその後の共析変態完了時までの析出量の和になります.接種は,基地組織(フェライト/パーライト率)にも影響を与えるので,鋳放しでの基地組織がフェライトならば黒鉛量が多く,パーライトなら少なくなります.従って,同じ化学組成ならば,パーライトが多い程,高い密度になるでしょう.残念ながら接種と鋳鉄の密度変化をテーマにした研究論文は見つけられませんでした.岩淵らの鋳鉄の成長に関する研究報告1)に鋳鉄の密度の測定方法や理論的考察などを参考されては如何でしょう.
質問は,画像解析結果から接種による黒鉛化を黒鉛面積率・体積率で評価し,密度の算出,それに伴う機械的性質(引張強さ)に関する疑問となっています.結果は結果として画像解析では,試料の研磨状態,顕微鏡(倍率や照度性能),画像解析装置(画素数,二値化条件,n数の検討など)などが結果に影響を及ぼすと考えて下さい.黒鉛形態の他に腐食して基地組織のフェライト/パーライト率についても確かめられると良いでしょう.ところで,硬さと強度との関係が書かれた文献はあるが,密度と強度との関係についての文献・論文などあればお知らせください.
次に接種本来の目的は,Fe-Fe3C系凝固をする一般的な鋳鉄をFe-G系凝固させ,共晶セメンタイト(チル)の発生を防止することです.このチル(共晶Fe3C)防止機構について黒鉛化,黒鉛形態,微細化,肉厚感度の低減などのミクロ組織変化とそれに伴う機械的性質への影響については多くの文献がありますのでWeb上のJ-Stageで検索されると良いでしょう.一例として,なぜ「チルが消えるのか?」,「黒鉛形態が変化するのか?」,「微細化するのか?」などについてかかれた解説2)がありますので参考にして下さい.
1)岩淵義孝、小林勲:鋳造工学70(1998)806
2)井川克也;日本金属学会会報,3(1964)477 https://doi.org/10.2320/materia1962.3.477
(『鋳造工学』91巻7号掲載)