充填完了時のアルミニウム合金溶湯中の酸化物は,溶湯温度が十分高くて(680℃付近),金型側面の型温が高い場合,浮力によりキャビティ上面に集まる以外に温度が高い側面に集まることがあるのでしょうか
ここで言う酸化物は溶湯酸化物で,保持炉の中で沈降している,あるいは懸濁している塊状の酸化物ではなく,皮膜状の酸化物を示していると考えます.皮膜状酸化物の多くは大気,あるいは燃焼雰囲気と反応して生成したもので,酸化皮膜面は溶湯と濡れにくい状態です.
アルミニウム合金の溶湯酸化物はAlやMgの酸化物が主体で,密度は溶湯よりも高いのですが,濡れにくい酸化皮膜面に溶湯の水素によって気泡膜が生成することで見掛けの密度が低くなります.見掛けの密度が溶湯よりも低くなると浮力が大きくなり,浮上します.温度が高い領域で凝固までの時間が長い場合,気泡が付着した酸化物は浮上することはあります.
酸化物単体の場合には,凝固時に素地に取り込まれます.気泡が付着した酸化物も凝固方向に向かって移動することは難しいと考えます.凝固層に押され,固相間の残留液相内を気泡だけが移動することは想定できますが,酸化物は固相間にトラップされると考えます.
もし,高温度領域に酸化物が観察されるようであれば,凝固時間が長いことで気泡が成長しやすくなりますので,そこに存在した酸化物に気泡が生成されることで酸化物として判別できやすくなったことが考えられます.
(「鋳造工学」93巻11号掲載)