コールドチャンバー式のアルミダイカストにおいて理想の型温度は何度でしょうか?

 ダイカストで型温度に影響しそうなことは①流動性,②外引け,③鋳巣,④焼付き,⑤鋳造割れ,⑤離型剤付着温度,です.製品そのものの欠陥に関わるものは①から④,製造工程に関わるもの⑤とです.ただし,①から④までは,型温度と製品肉厚,製品形状,内冷など他の要因が組み合わさったことによる影響になります.そのため,金型温度のみの影響を受ける⑤の離型剤付着温度を取り上げます.離型剤は,製品を型から安定して取り出す潤滑性の確保,型への焼付き防止,型の冷却等の役割を持っており,金型面に一定量付着することで潤滑性が確保されます.この離型剤の付着とは,離型剤の成分中の油分が型表面に潤滑油膜として残ることを意味します.一般的な離型剤の多くは,水溶性離型剤であるため,この溶媒である水分が蒸発して,油分が残存することが必要です.そのため,金型温度が低いと溶媒である水分が十分に蒸発されず潤滑用の油分は流れ落ちてしまいます.また逆に温度が高すぎると水分の蒸発によるライデンフロスト効果により離型剤自体が浮上してしまい,離型剤の成分が付着しません.青山らの研究によると水溶性離型剤は,金型温度140℃から240℃の範囲にすると離型剤の付着性が高いことを示し,さらに300℃以上になると濡れ温度を超え,急激に付着しないことを明らかにしております.⑤の離型剤付着温度のみに限定するのであれば,理想の金型温度は,140℃から240℃の範囲ということになります.最近では金型が焼き付きやすい高温の型部にも付着が容易な原液塗布の油性離型剤が登場しており,400℃を超える温度まで使用可能です.油性離型剤を利用するのであれば,金型温度140℃から400℃が理想の金型温度とも言えます.

(『鋳造工学』94巻12号掲載)

参考文献
1) 天野,井澤,佐々木,青山,吉田,岡田:鋳造工学87(2015)789
2) 青山,赤瀬,坂本:軽金属41(1991)49