溶湯が充填する時に金型キャビティ内の背圧が問題となります.背圧を逃がすためのガス抜きの閾値はどの程度ですか?
ガス抜きは,材料(鋳鉄,アルミニウム合金),工法(ダイカスト,低圧鋳造法,重力鋳造法など)に限定されない鋳造という工法では共通して検討しな ければならない項目です.例えば,アルミニウム合金ダイカストでは,鋳物の高品質化に伴ってキャビティ内のガスを少なくするためにベントによるガス抜きを 行ったり,積極的にガスを抜く真空化,そして更なる高真空へと工法が進化してきています.
ガス抜きの無い単純な層流充填での鋳造を考えた場合,キャビティと同体積の空気(ガス)が溶湯の充填時に鋳造圧力で圧縮され,鋳造圧力と平衡状態 になると,それ以上の体積減少が無くなり圧縮されたガスはキャビティ内に残ります.キャビティ内に残ったガスが製品形状の表面部位なら欠肉(湯回り不 良),鋳物内ならガス欠陥(鋳巣)となり,どちらも欠陥となります.溶湯充填段階でガスが集中する部位にガス抜きがあれば,キャビティ内のガスを外に放出 できるのでガスが残らなくなり,ガス欠陥の無い鋳物を作ることが可能です.
実際の鋳造においては,単純な層流充填では無く,充填の先湯の乱れや溶湯の合流部位でガスを巻き込んだりして製品内にガスが残り欠陥となります. そのためキャビティ内に残るガスを可能な限り少なくし,ガス欠陥の防止につなげています.また,鋳物の凝固収縮段階では,鋳物内のガスがひけ巣の起点と なって,ガスとひけが混在した大きな鋳巣欠陥となることも多く見られます.
ガス抜きの閾値についてですが,キャビティ内にガスが残らないのが理想状態です.しかし理想状態と実際の鋳造にはギャップが必ずあり,閾値は部品 形状や部品に求められる要求性能によってさまざまであり,良品が必ず得られるという共通の値を設定することは不可能です.通常の生産では,試作段階でガス 欠陥の発生と背圧の関係を調査して個別に設定することで,最適な閾値を用いて生産をして行くのが一般的な方法になります.