『鋳造工学』を見て疲労について調べていたのですが,疲労試験と疲労き裂進展試験が行われていました.2つの試験の違いについて教えて下さい.
疲労とは,繰返し応力または繰返しひずみによって金属材料の性質が変化することを意味していますが,通常は1回の引張では破壊を生じない応力でも,これを繰返し負荷することにより材料にき裂が発生し,進展して破壊に至る現象を指して疲労と呼んでいます.疲労寿命は,き裂が発生するまでに要した繰返し数と,き裂が進展して材料が破壊するか,あるいは任意のき裂長さにまで進展するのに要した繰返し数の総和を表しています.
疲労特性を評価するために,次の2種類の試験法が用いられています.ひとつめは,き裂(あるいはき裂状の切欠き)を含まない平滑試験片に,応力あるいはひずみ振幅を制御した条件で繰返し変形を与え,試験片が破断するのに要する繰返し数を求めるもので,一般に疲労試験と呼ばれています.これによりS-N曲線(S:応力振幅,N:破断までの繰返し数)が得られます.疲労試験によって得られる寿命は疲労き裂の発生と進展の両方の過程を含みます.通常,き裂発生までの繰返し数は全寿命の90%近くを占めますので,この試験は疲労き裂発生に重きを置いた見方であると言えます.なお,ひずみ制御で行う比較的破断までの繰返し数が少ない試験を低サイクル疲労試験,応力制御で行う破断までの繰り返し数が多い試験を高サイクル疲労試験と呼んで区別することもあります.
ふたつめは,材料は不可避的にき裂(欠陥)を含んでいるものとし,その進展を破壊力学的に解析することによって材料の寿命を取り扱う試験で,これを疲労き裂進展試験と呼んでいます.ここでは,非破壊検査等で検出可能な欠陥寸法を基準として初期き裂長さを規定し,このき裂が破壊靱性値等を基準として決まるある臨界長さまで進展するのに必要な繰返し数を疲労寿命として定義します.疲労き裂進展試験で得られる経験的なき裂進展則(パリス則:da/dN=ADKm,da/dN:1サイクル毎のき裂進展量(き裂進展速度),DK:応力拡大係数範囲,A, mは材質によって決まる定数であり,mは金属材料では,一般に2〜7の範囲となることが知られています)を利用すれば余寿命予測をすることができます.このような方法は損傷許容設計として知られており,航空機や原子力発電設備の設計基準に利用されています.