片状黒鉛の形状はA型が良い,と言われる理由は?

 片状黒鉛鋳鉄の機械的性質は黒鉛形状と基地組織に大きく影響されており,「A型黒鉛が良い」と言われています.昔は,A型の方が黒鉛の先端が丸いので,応力集中が少なくなるため機械的性質が良くなるといわれた時期もありました.しかし,黒鉛を3次元的に考えれば,この説は正しくないと考えられます.

 まず,パーライトの多い鋳放しの片状黒鉛鋳鉄においては,D型黒鉛の割合が少なくA型黒鉛の割合が多くなるほど,引張強度と伸びがともに高くなります.D型黒鉛の周辺には柔らかいフェライトが生じやすい事と,伸びの低いD型黒鉛から破壊がスタートする事が,その原因と考えられます.

一方,フェライト化焼鈍をしてフェライト基地にした片状黒鉛鋳鉄においては,A型黒鉛が増すにつれて伸びは増すものの,パーライトの時ほど引張強さには大きな変化はありません.詳細は『鋳造工学』第77巻(2005年)12号P836を参考にして下さい.

いずれにしても,A型黒鉛になるほど伸びが高くなることは間違いないことのようです.材料が壊れるか否かは,伸びが0.5~2%程度しかない片状黒鉛鋳鉄においても,伸びが重要な要素となります.また,A型黒鉛になるということは,接種が十分に効いていることを示しており,このことは共晶セルが小さく,共晶セル数が多いことも意味しています.これも,A型黒鉛が良い別の理由と考えられます.

(『鋳造工学』88巻9号掲載)