アルミニウム合金ダイカストで溶湯が金型と接触するとすぐに凝固すると思いますが,そのあとはどうなるのでしょうか?

  金型内の溶湯の動きを直接見ることは簡単ではないので,お答えするのは難しいと思いますが,これまで様々な実験や見解が出されていますのでそれに沿って簡単にご説明したいと思います.

まず,溶湯が金型キャビティに射出されて金型と接触した時点で当然ながら溶湯の熱は急速に金型に伝達され,温度が低下します.その場に溶湯が留まり,十分に冷却されればご指摘のようにそのまま凝固すると思います.しかし,金型とある程度の角度を持って高速で衝突すると溶湯は慣性力によって金型から離れることが考えられます.日産自動車の神戸氏が直接観察をした結果((一社)日本ダイカスト協会編:「ダイカストにおける溶湯射出挙動」(1999))を詳細に観察すると,図1のように溶湯が跳ね返っているのがわかります.これは,ゲートから流出した溶湯が約40°の角度で可動金型に衝突して,金型キャビティが広い(肉厚で考えると厚い)ために(c),(d)に見られるようにその一部が跳ね返る現象であると考えられます.

 また,トヨタ自動車の古川氏(古川:型技術29,3(2014)24)は,金型表面にカーボンナノファイバーとフラーレンC60の被膜を形成することで,金型キャビティに流入した溶湯が金型に付着しにくくする(凝固しにくくする)ことで,剥離(あるいはめくれ)などの不良を低減できることを報告しています.

もし,その場に留まって凝固するとチル層を形成することになります.しかし,その一部は後続の溶湯が接触した時点で,その熱で再溶解してしまうことも考えられます.鈴木氏ら(鈴木,古本,坂本:軽金属,21(1971)379)は,チル層の形成について検討し,肉厚が薄くてゲート速度がやや遅いときに,溶湯は金型に接した部分で凝固するが一部が再溶解される可能性を示しています.

 このように,金型キャビティの中ではいろいろな現象が起きていると考えられます.

図1 ゲートからの溶湯の流出挙動

(『鋳造工学』89巻3号)