鋳鉄とAl-Si合金ともに共晶凝固しますが,凝固速度が大きな時,共晶凝固するのでしょうか.また,その時の常温での顕微鏡組織はどのようになっているのか教えてください.

鋳鉄については,球状黒鉛鋳鉄として晶出する場合を除いて回答いたします.教科書では,共晶合金の凝固は,液体から二つ以上の固相が同時に晶出すると習っていると思います.片状黒鉛鋳鉄の共晶凝固の場合,過冷却が小さく,ゆっくり凝固するような条件では,オーステナイトと黒鉛が晶出します.この時,液相からオーステナイトと黒鉛が晶出する速度はほとんど同じで同時に晶出すると考えて良いでしょう.A型黒鉛と称している組織は,この状態で形成されます.また,黒鉛凝固では黒鉛の粗さ,すなわち黒鉛相の間隔は,溶湯中のCの拡散距離(局部凝固時間)に支配されると考えられています.一般に,凝固速度が大きくなる(またはその場所での凝固時間が短くなる,あるいは凝固時の過冷が大になる)と,黒鉛間隔は狭くならざるを得ず,黒鉛が微細化します.凝固速度が増大すると黒鉛はA型の形態を取り得なくなり,枝分れを繰り返していわゆるD型(過冷黒鉛とも呼ばれている)になります.さらに凝固速度が大きくなると,別の凝固形態(セメンタイト化)を取らざるを得なくなります.これは溶湯中のC原子が黒鉛まで拡散する時間が無く,黒鉛化が凝固の進行に間に合わなくなるためです.つまり,黒鉛化が不可能になり,C原子がFe3C(セメンタイト)の形態を取ことになります.凝固速度が大きくなると,準安定系のFe-Fe3C共晶が起こり,レデブライト組織(オーステナイトとセメンタイトの共晶組織)となります.

Al-Si共晶合金の場合,αアルミニウム固溶体は金属相,シリコン相は非金属相です.共晶組成の合金がゆっくり凝固するときには,α固溶体とシリコン相は同じ速度で成長して,どこにもα固溶体のデンドライトが見られないような共晶組織を形成します.けれども急冷等で過冷度が大きくなるほど,α固溶体の成長速度は,シリコン相よりも速くなります.そうすると共晶組成であるにもかかわらず,α固溶体のデンドライトがみられることがあります.このことは,少し専門的にはカップルドゾーンという概念で,鋳鉄,Al-Si合金の区別なく,統一的に説明されています.結果としては,金属相と非金属相からなる共晶合金は,冷却速度が増すほど,金属相のデンドライトが組織中に現れる傾向にあります.Al-Si合金の場合,冷却速度が速いときに,デンドライトが晶出した後,デンドライト間隙の液相の濃度が過共晶領域に達し,初晶シリコンとしか解釈のしようがないシリコン相が晶出することもあります.ブレージングシート材を製造する過程ではしばしば問題になります.こうした現象もカップルドゾーンの概念を学ぶと特殊現象とせずに説明できます.

(『鋳造工学』89巻6号掲載)