なぜ鋳鉄は鋼に比べ,錆が進行しにくいのでしょうか?
鉄は水に接すると鉄イオン(Fe2+)となります.そして,水中の水酸化イオン(OH-)と反応すると水酸 化第一鉄(Fe(OH)2)ができ,さらに酸化が進行すると水酸化第二鉄(Fe(OH)3)が出来ます.これがいわゆる赤錆と呼ばれるもので,この赤錆は 鉄表面には密着せず鉄を保護する力はありません.
鋼の場合,錆が進行するとどんどん剥がれ,酸化膜が腐食の防止の役割を果たしません.これに対して鋳鉄の 場合,鉄と黒鉛が存在し,この黒鉛は全く錆びず鉄分だけが腐食されます.この黒鉛を含む腐食層は,黒鉛そのものの機械的な固定効果(アンカー効果)がある ため剥がれにくくなり,腐食も進みにくくなり,結果的に腐食を防止する効果があるようです.
また,鋳鉄には2%程度のSiが含有するので,錆び層の安定化 効果により保護層(Fe-C-Siの混合層)が形成されるのです.腐食に対する基本的な性質は,鋳鉄も鋼も大きな差はありませんが,実環境中では鋳鉄の方 が良好な耐久性を示すことが多くあります.フランスでは,ルイ14世によって建役されたヴェルサイユの街と宮故に水を送るために1644年に約24kmに 渡って敷設された鋳鉄管は,百年以上もの長い間,錆にもまけず現役の水道管としての使命を果たしています.
参考文献として日本鋳造工学会編:鋳造工学便覧 (丸善)(2002)250,中村幸吉著:鋳鉄の科学(日本鋳物工業会)(2005)48があります.