アルミ鋳物AC4Cの組織観察をしていると,この写真のようにSiが凝集したような領域が観察されることがあります.原因は何でしょうか?また,機械的強度や耐気密性に対して悪影響はあるのでしょうか? (質問者:天水鉢ウォッチャー)
大型の砂型鋳物で,写真のようなミクロ組織が鋳肌近傍に観察されるということから考えて,逆偏析が生じているものと考えられます.Siが凝集したような組織は,共晶組織と呼ばれるものです.
砂型に注湯された溶湯は,砂型から熱を取られることによって,凝固します.鋳物の厚み方向で見ると,砂型の方向から凝固します.AC4C合金が凝固する場合,ます,初晶のαAl相がデンドライト状に凝固してきます.写真の白い結晶がαAl相です.この時,まだ凝固していない残留液相は,Si濃度が高くなり,共晶組成となります.そして,初めに凝固したα相は,凝固収縮により体積が減少します.最初に凝固した鋳壁に接触している部分が体積収縮により鋳物中心部に引っ張られ,鋳壁と鋳物の間に空間ができます.この空間に,押湯などの内部の圧力によって残留液相が押し出されます.押し出された残留液相は,共晶組成になっていますので,これが固まると写真のようなSiの多い組織になります.AC4C合金のように凝固温度範囲が広い合金では,固液共存状態の期間が長く,逆偏析が生じやすくなります.
機械的性質や気密性に及ぼす影響については,逆偏析の程度によって異なります.通常のミクロ組織と共晶組織では,機械的性質が異なりますが,それほど大きくなければ問題ないと思われます.また,通常組織と逆偏析組織との間に空隙などが無ければ,気密性に及ぼす影響もそれほど大きくないと考えられますが,詳細に調査してみないと明確な回答はできないと思います.
(『鋳造工学』95巻7号掲載)