チャンキー黒鉛は,凝固時間が長い厚肉鋳物の最終凝固部に生成されることが一般的に知られている.更に溶湯処理剤(球状化剤や接種剤)を構成するCa,Si,Ce,Niなどの元素がチャンキー黒鉛の生成に影響を与えると報告されている. 一方,数kg~十数kgの小物鋳造現場での経験では、チャンキー黒鉛が出やすい製品において,注湯温度が高いより低い時の方が発生しやすい.これは,厚肉大物球状黒鉛品と真逆になると思われますが何故でしょうか?
注湯温度の影響に関しては,一般的に高温注湯の方がチャンキー黒鉛出やすいことが知られています1).厚肉大物品に於いて低い注湯温度の方が出やすいとの知見は殆どありません.だからと言って,貴殿の質問を否定することも出来ません.
チャンキー黒鉛についてイレギュラーな一例をあげると,自動車用一般肉厚が5~10数mm程度の薄肉筒状小物品だが,高Si組成(3.5%Si以上)のエキゾーストマニホールドでは,悪い条件が重なってくるとチャンキー黒鉛が発生することがあります.その原因の一つに低温注湯が挙げられています.
ここで、なぜ高Si組成の薄肉鋳物でもチャンキー黒鉛が発生し,かつ低温注湯の方が出やすいのか,その理由について以下に考えてみます.
チャンキー黒鉛の生成は球状化剤,接種剤及び配合地金中の微量元素を含めた化学組成的な主要因が存在するほかに厚肉鋳物であること,すなわち凝固速度が遅いことが共通点であると言われています2,3).凝固速度が遅いとは,最終凝固部で黒鉛粒数が減少し,球状黒鉛を囲むオーステナイト層の厚さが増大するので,炭素の拡散速度が低下し,黒鉛化が困難になるため球状黒鉛からチャンキー黒鉛に連続成長すると解説されています2).一方,薄肉鋳物で低温注湯の場合,凝固速度は早いため,黒鉛化すなわち球状黒鉛としての成長が困難になり,鉄セメンタイト共晶凝固してレデブライト組織になるのが普通ですが,高Si組成が故にチル化にならずに球状黒鉛でなくチャンキー黒鉛に成長し得ると考えます.また,低温注湯でチャンキー黒鉛が出た実例にはFe-Si系接種剤による注湯流接種の不均一,すなわちSiの局部的に濃化4)にも影響される一因と考えられます.詳しくはそれらの解説にご参照いただければ幸いに思います.
1) 菅野利猛:鋳造工学,76(2004)130
2)例えば,中江,辛ら:鋳造工学,75(2003)337
3) 津村 治:鋳造工学,76(2004)125
4)木口昭二:鋳造工学,76(2004)114
(『鋳造工学』第88巻第4号掲載)