ネズミ鋳鉄の共晶セルの見えやすい,見えにくいは何が影響しているのですか? 同じくセル境界の面積は,何に依存していますか? 成分は関係ありますか?

 ねずみ(片状黒鉛)鋳鉄の凝固過程で生じる共晶セルは、鋳鉄が共晶凝固をするときの核生成・成長の単位となっており、接種のような不均質核生成を促進するような処理を施すと、共晶セル数は増加します。また、溶湯内にリン(P)を多く含む組成では、Pが共晶セル境界に偏析するため、共晶セル現出用腐食液(ステッド試液;塩化第二銅液)を用いて腐食すると共晶セルを明瞭に観察することができます¹⁾²⁾。
 共晶セルは凝固の進行は、亜共晶組成の場合はオーステナイト樹枝状晶が冷却速度の大きい鋳型端部から中心に向かって成長しその間を同方向に片状黒鉛の共晶セルが埋めていきます。過共晶組成では、溶湯が液相線温度に達すると初晶の黒鉛の間を片状黒鉛の共晶セルが埋めていくことなります。従って、凝固する際の冷却速度の大小が共晶セル数に影響を与えると理解されますが、さらに添加元素(主として上述のPの様な場合)により片状黒鉛の共晶セル境界に低融点の液相を生ずる効果が現れると、顕微鏡組織にも影響を与えることになります³⁻⁵⁾。これらは、固体と液体間での合金元素の分配係数として議論され、接種やCa-Si、Tiといった添加元素が影響するといわれます⁴⁾⁶⁾。
 なお共晶セルの観察では、一般的な結晶粒に比べて大きく、粒度測定には2~25倍の倍率で観察でき、肉眼でも観察できるといわれます。一方で観察倍率が高いと黒鉛などとセルの境界が詳細過ぎて見えにくくなります⁷⁾。

参考文献:
1)素形材センター編:鋳造技術シリーズ3 新版 鋳鉄の生産技術(2013), p25.
2)中江秀雄:鋳造工学(1998), 産業図書, p44-46.
3)大平五郎,井川克也:金属工学シリーズ2 鋳造工学(1995), p140.
4)尾崎良平, 岡田明:鋳鉄共晶セルの現出法に関する研究, 鋳物37(1965), p931.
5)水野兼雄, 福迫達一:ねずみ鋳鉄の共晶セル組織と機械的強度に及ぼす冷却速度の影響, 材料31(1985)p84.
6)中江秀雄:鋳造工学(1998), 産業図書, p97-98.
7)素形材センター編:鋳造技術シリーズ3 鋳鉄の生産技術-改訂版(1999)p476-477.

(『鋳造工学』95巻6号掲載)