接種をすれば引張強さが向上する事は事実です.しかし,接種をすれば黒鉛化が促進されて黒鉛量が増加し,密度は下がるはずですが,なぜ接種をして黒鉛化を促進した方が強度が向上するのでしょうか.

接種は,鋳込み直前の鋳鉄溶湯にフェロシリコン(Fe-Si)やカルシウムシリコン(Ca-Si)などを少量添加して凝固組織を改善し,機械的性質の向上を図る溶湯処理法の1つです.接種を施すことにより,鋳鉄の組織が改善され,チル化が抑制され,肉厚感受性が小さくなります.接種により片状黒鉛鋳鉄の組織は,A型黒鉛組織となり,基地組織のパーライト化が促進され,それにともない黒鉛面積率もわずかに減少するので,引張強度が向上します.

参考文献:中江秀雄監修:鋳物技術者と機械設計技術者のための新版鋳鉄の材質,日本鋳造工学会(2014)P18

(『鋳造工学』92巻4号掲載)