接種量が多い場合,引け巣が増大するといわれていますが,どの様なメカニズムにより増大するのでしょうか?
『接種量が多いとひけ巣が増大する』とは一概に言えません.言えるのは,①FeSi系接種剤から核生成物質がSiと共に添加されるので,②黒鉛化(溶鉄に溶解している炭素は晶出して黒鉛になる)が一挙に進みます.すると鋳鉄の場合,③溶質である炭素が過飽和となり黒鉛として晶出,体積が約3.4倍になるので膨張(張り気)が起こり,鋳型内壁を外に押し広げる力が働き,鋳型変形あるいは上型を持ち上げます.結果として鋳物空洞の容積が大きくなり,これがひけ巣の一因となることもあります.鋳型が十分に強くかつ製品になる部分が共晶凝固する時,湯口系へ溶湯の逆流が無ければ,この膨張はひけ巣低減に寄与することになります.特に球状黒鉛鋳鉄は片状黒鉛鋳鉄の表皮生成型(スキンフォーメイション)凝固に比べ,凝固殻が弱いマッシイ型(かゆ状)凝固なので鋳型にかかる力が大きく,鋳型強度もひけ巣の一因なります.とは言え,ひけ巣は溶湯が湯口系と遮断された後の凝固過程で外殻が出来,内部の液相の収縮と膨張量,鋳型強度と膨張,型締め力とウエイトさらに鋳枠の強度などとのバランスが問題で,接種の添加量だけでは説明できない現象なのです.
逆に,「接種量が多い」とは,どのように考えての質問だったのでしょうか? 教えて下さい.さらに接種には,チル防止,機械的性質の改善,ひけ防止などいろいろな目的があり,目的に応じて接種剤,添加方法そして添加量を決めなければなりません.今回はここまで,さらに詳しくは,次の質問か別の機会で,下記文献も参照ください.
参考文献:新版「鋳鉄の生産技術」P405~412平成24年10月10日発行,素形材センター