球状黒鉛鋳鉄の共晶凝固時,黒鉛はオーステナイトに囲まれて球状に成長すると聞きました.オーステナイト(γ,固体)と黒鉛の界面で黒鉛がγから析出してより大きな球状になるのでしょうか?
鋳鉄の根幹に関わる重要な質問ですネ.球状黒鉛鋳鉄の生成と成長には賛否両論いろいろな説があります.生成に関しては,雪の結晶と同じでどんなものでも核の元にはなるのですが,最近では硫化物の核がより効果的であるとする説が多くなってきました.冷却速度の大きい発光分光分析用のチルした球状黒鉛鋳鉄の試料などを観察すると,最初の黒鉛はどうも溶湯から直接発生しているように見えます.また,瞬時にオーステナイトに囲まれることもわかります.共晶凝固なのでオーステナイトトと黒鉛が同時に出るのは当たり前ですネ.その後の成長ですが,過去には液体と通じている部分がありこの部分を通して拡散が進み,黒鉛が成長するといった説もありました.細かな計算は省きますが,片状黒鉛の共晶セルの直径を4mm,球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の直径を0.06mm,凝固に要する時間を20分,製品肉厚を60mmとすると,片状黒鉛鋳鉄の共晶セルの成長速度は6mm/h,球状黒鉛鋳鉄のセルの成長速度は0.2mm/hとなり,球状黒鉛の成長速度は片状黒鉛の1/30と言う事になるそうです.固体であるオーステナイトを通してのカーボンの拡散がいかに遅いかが分かります.質問に答えると,球状黒鉛鋳鉄はカーボンを固体のオーステナイト層を通して液体部から拡散により吸収し成長することにより,より大きな球状黒鉛となっています.