球状黒鉛鋳鉄の引張試験用供試材は,JISG5502では,「鋳込みの終わり近くに鋳造する」と記載されています.しかし,実際の鋳込みは,製品等により時間がばらついて,結果として安定的な試験結果が出ません.そうならないようにするためには,(フェイディングを見越して)予めMgを高めにする等の工夫をした方がよいのでしょうか? また弊社では,ほとんどの場合(客先立ち会い等含めて),試験片は球状化処理直後に採取していますが,それは厳密には正しくないやりかたでしょうか?

球状化処理後,注湯までに長時間経過した鋳鉄溶湯では,球状化不良やチルの発生などの問題が生じます.

良好な球状黒鉛鋳鉄を得るための溶湯処理条件は,球 状化剤の粒度や添加量,溶湯の量,処理温度などの諸条件により変動しますが,標準的な効果の持続性(フェイディングが起こらない時間)は,10分程度と言 われています.そこで,10分以内に全ての鋳型に注湯し,最後の鋳型に注湯するのにあわせて,引張試験採取用鋳型に注湯するのがよいでしょう.

鋳込み終わり近くの溶湯を鋳造するのは,同じ取鍋から先に鋳込まれた試験片の材質の方が,終わり近くの溶湯から鋳込まれた引張試験片の材質より悪くならな いと考えているからです.鋳込みまでの時間が異なれば,引張試験結果もわずかに異なりますが,この場合安定的した試験結果を得ることが目的ではなく,同じ 取鍋から鋳込まれた鋳造品が,定められた基準以上であることを保証する意味もあります.

また,過剰なMg添加は,チルを誘発するので,最終鋳込みでのフェイディングを見越して,はじめからMg量を多くすることは,決して良い方法とはいえません.

なお,現実には,引張試験片として球状化処理直後の溶湯を鋳込んで採取したものを評価している鋳物工場も数多くあります.ただし,この場合も,数々の経験と実証の上で,客先と話し合って両者で取り決めて自社の責任で行っているものです.  球状化処理後,注湯終了までの時間経過にともなう残留Mg量の減少については,あらかじめ調査を行い,フェイディング時間をよく管理することが大切です.