近年,軽量化のための材料としてMg-Li合金が挙げられていますが,マグネシウムとリチウムはともに活性な元素であると聞きます.鋳造時や使用時に危険は伴わないのでしょうか.

 マグネシウムとリチウムは,酸化物の標準自由エネルギーが他の実用金属よりも著しく低く,これに主に起因して,大気中においても固相線直下の固体状態から液相の溶融状態(溶湯状態)の場合,大気中の酸素と反応して急激な酸化反応が生じます.これらの反応は急激な発熱反応であり,そのまま大気中で放置しておくと溶解・熱処理炉や周りの設備をも損傷する恐れがあります.リチウムを含まない通常のマグネシウム合金であれば,防燃ガス(キャリアガスとして窒素,アルゴン,二酸化炭素等を用い,これに0.05~2%程度の微量で多用されたが,温暖化係数が高いことから,ここ四半世紀前よりフロロケトン系ガス(FK)が用いられることが多い)を溶湯表面に吹き付ける,あるいは容体化熱処理の鋳物の雰囲気として通気させるなどより,その表面の酸化燃焼を抑止することにより安全に工業部品が国内外で安全にダイカストや砂型にて部品が鋳造されています.

 一方,ご質問のマグネシウムとリチウムの合金ですが,これはマグネシウムよりもさらに,酸化物の標準自由エネルギーが低値であるリチウムを含むことから,前述の通常のマグネシウムよりもさらに高度な防燃技術が必要であり,リチウム含有量が低い場合は,前述のマグネシウムと同様な防燃ガスを用いる場合もありますが,リチウムが高含有となるとこれも効果が無く,したがってアルゴンガスにほぼ完全に置換したチャンバ内で鋳造するなどの特殊な対策の実施が必要となるようです.ちなみに工業的には既に国内においててノートパソコン部品に工業的に使用している事例(Mg-9%Li-1%Al系合金LZ91など)も近年はあり,鋳造したMg-Li鋳塊から切り出した素材を塑性加工することにより部品が製造されているようです.比重が約1.5とマグネシウムの1.8よりもさらに軽量であるため,その将来性が近年,注目されています.

                                                                                                                                                                                               (「鋳造工学」94巻1号掲載)