金型鋳造や低圧鋳造で塗型が必要なのはなぜですか.離型剤の方が生産性が向上し,品質も安定すると思うのですが
アルミニウム合金鋳物の金型鋳造に対するご質問と想定してお答えします。金型への塗型は,主として溶湯の冷却速度をコントロールすることを目的として塗布されます。塗型材を塗布すると,表面に小さな凹凸ができます。アルミニウム溶湯は自身の表面張力によって小さな凹凸の隙間に入り込むことができず,その結果溶湯と塗型の間に空気の断熱層ができます。この断熱効果により,流動中の温度低下が抑制されて,湯流れが良くなります.同時に,塗型の凹凸が空気の逃げ道になることでも湯流れ性が向上します.もちろん塗型自身の熱伝導率(断熱性)と厚さも熱伝導に影響します.これらの複合的な効果を得られることが塗型の利点です.塗型が摩耗するとこれらの効果が失われて湯流れが悪くなるので,摩耗・損耗による塗型の経時劣化を防止するためにダイカストのような1ショットごとの離型剤を用いるのは一案と思います.ただし,液体離型剤の場合は,熱伝導に影響する厚さの管理や空気の逃げ道を作ることが難しく,溶湯の熱によって離型剤が揮発する場合はそのガスも逃がさなければなりません.非揮発性の粉体離型剤を用いたワンショット離型剤が実用化されていますが,安定した厚さと空気の逃げ道を作るための均一な塗布が難しいことが普及に至っていない理由と考えられます.
(『鋳造工学』96巻9号掲載)