鉄に疲労亀裂が発生するとき,表面と内部で亀裂の進展に差が生じることがあるのはなぜですか?

 板材に均等な力がかかっている場合,疲労亀裂は理論的には一様に進展するに思われますが,様々な要因の影響で一様には進展しません.その要因としては,力学的要因,組織的要因,機械的要因の3つが考えられます.

 まず,力学的要因としては,表面と内部の応力状態の違いが挙げられます.亀裂が進展している試験片表面付近では,亀裂先端に発生する塑性域は大きくなる平面応力状態となります.一方,板厚の内部では亀裂先端に発生する塑性域は小さくなる平面ひずみ状態となります.この応力状態の違いにより,表面と内部で亀裂進展に差が生じます.こういった場合,研究室レベルでは,その差を小さくする解決法として,サイドグルーブ(側溝)と言われるVもしくはU字型の溝を設けることでその差を小さくする方法があります.これは亀裂が進展する試験片表面で板厚方向の変形を拘束することにより,試験片表面を平面応力状態から平面ひずみ状態にすることで改善される場合があります.

 次に,組織的要因として,鉄と黒鉛から成る鋳鉄を例に挙げます.鉄の基地組織はある程度の進展抵抗を有していますが,亀裂は黒鉛に沿って進展しますので,基地組織に比べると,進展速度が増してしまいます.この様に多相の組織が存在した場合では,亀裂進展量に差が生じることが考えられます.

 最後に機械的要因ですが,疲労亀裂は一様な力を負荷すれば,亀裂は一様に進展するはずですが,機械構造物では一様に力が負荷されていない(例えば,曲げや捩り成分が存在する)場合も多く,表面と内部では亀裂進展量に差が生じます.実際に研究室で行っている疲労亀裂進展試験もわずかな軸心のずれによって,表(おもて)面と裏面で亀裂長さに差が生じたり,表面と内部でも差が生じたりします.

(『鋳造工学』94巻6号掲載)