鋳鉄の溶湯の中から非金属の黒鉛が出現するのはどうしてですか.さらにオーステナイトからも黒鉛が現れるのはなぜですか? 教えてください
確かに不思議な現象ですね.謎解きは,昔習った理科の「溶液の勉強」で溶媒と溶質,飽和溶液と過飽和溶液,溶解と沈殿,溶解度などを思い出そう.
鋳鉄の溶湯とは,溶媒が液体の鉄で,溶質が主に炭素(C)とけい素(Si)の溶液と考えることもできます.広い意味で2つ以上の金属同士あるいは金属と非金属元素の溶液が固まった物が合金です.鋳鉄は鉄と炭素の合金です.鉄-炭素2元平衡状態図は,あるC%の溶湯が,温度低下に伴いどのような状態で存在しているかを教えてくれます.
話を質問に戻そう.鋳鉄の溶湯(溶液)を鉄と炭素からなる溶液とすると,高温では飽和溶液に達していませんが,温度低下により飽和し,そして過飽和の状態になると溶質が溶湯中に晶出します.亜共晶組成(CE≦4.3%)の場合には共晶温度になるまで炭素は飽和せず,溶湯中に初めに現れる結晶(初晶)は,オーステナイト(γ鉄)です.過共晶組成(4.3%≦CE)の場合には,液相線温度に達すると溶湯から炭素が吐き出されて初晶の黒鉛(固相)として晶出します.溶湯組成が共晶(CE=4.3%)で温度が共晶温度に達すると,亜共晶,共晶,過共晶いずれの組成でも残液からオーステナイトと黒鉛が同時に晶出し始め共晶凝固終了時には,すべてが固相(オーステナイトと黒鉛)になります.すなわち,溶液から非金属の黒鉛が現われるわけです.
固体には,溶解度の代わりに固溶度があり温度によって変化します.鋳鉄の場合,共晶凝固直後のオーステナイト中に固溶する炭素は,組成(亜共晶,共晶,過共晶)に関係なく約2%※)(共晶温度1145℃)ですが,温度が低下し共析温度(723℃)に達すると,0.8%になります.この間に固溶していた炭素の約1.2%がオーステナイトから吐き出され,黒鉛として主に既存の黒鉛の周囲に析出します.すなわちオーステナイト(固相)から黒鉛(固相)が現れるのです.溶液,溶解度,固溶度と鉄-炭素状態図が謎解きの鍵でした.
※)鋳鉄の場合この値はCE%なので実際のC%は,Si含有量の1/3を引いた値になります.
(『鋳造工学』89巻2号掲載)