鋳鉄の溶湯は,金属なのに固まると非金属の黒鉛が出てきます.どうしてなのか教えてください.

鋳鉄は,鉄(Fe)と炭素(C)の合金であることはご了解のことと思います.このような合金は,溶媒(鋳鉄の場合は鉄)中に溶質(この場合炭素)が溶け込んでいると,溶媒の凝固温度が低下することがあります.さらに鉄の原子の結合(金属結合)と,炭素(黒鉛とすると共有結合)の特性が大きく異なりますので,似たような結合同士の合金より凝固温度の低下は大きいのです.また,珪素(Si)も鉄の凝固点を下げる元素です.鋳鉄はまさにこの炭素と珪素が含まれる合金であることになります.溶けた鉄の温度が下がると,溶湯中に溶け込める限界の炭素の量も下がるので,余分な炭素は黒鉛(非金属)として晶出します(安定系の場合).そして次には鉄と黒鉛が同時に晶出する共晶という凝固をとります.

 さて,鉄と黒鉛の組み合わせで晶出する組織は,金属-金属の一般の組織と比べて不規則な組織となります.Crokerによれば,共晶組織は図1のように分類できます1).縦軸は2つの組織の体積率,横軸は溶融エントロピー(鉄と黒鉛は異質なので溶融エントロピーが大きくなる)で整理すると共晶組織は以下のようになって,

 1:規則的な層状(normal lamellar) 例 Pb-AuPb2

   2:規則的な棒状 (normal lod)         例 Cd-Pb

 3:不規則で不連続な層状(anormalous broken lamellar) 例 Fe-C

 4:不規則で複雑な形状(anormalous Complex regular) 例 Bi-Pb2Bi

鉄と炭素(黒鉛)の組み合わせは,黒鉛の体積率が小さく(7%くらい),2つの相が異質なので,領域3に分類されます.これが片状黒鉛鋳鉄の組織となり,まさに鋳鉄の特徴となります.

M.N.Croker: Proc. Roy. Soc.A.335(1973)15-37

(『鋳造工学』85巻9号掲載)