鋳鉄は鋼に比べて減衰能力が高いと思いますが,なぜですか? また鋳鉄よりも減衰能力が高い金属材料はありますか?

 風鈴に代表されるチル鋳物は黒鉛が出ていないので, 風鈴の清んだ音色からも想像できるように, 減衰能力は高くありません. 球状黒鉛鋳鉄も黒鉛が丸く, 振動等の外部力に対して応力集中を起こすことができない組織構造なので, 減衰能力は高くありません.
 片状黒鉛鋳鉄の振動吸収のメカニズムについては, ①黒鉛とマトリックス界面でのすべりによる振動エネルギーの吸収説②黒鉛内部自体でのエネルギー吸収説③黒鉛先端の応力集中によるエネルギー吸収説④①~④の複合説などがあります. 趙ら(鋳造工学68,(1996), 303)によれば, C%が高いほど, また同じC%であればA型黒鉛の場合細長い黒鉛ほど減衰能が高い事を示しています.
 栗熊氏(鋳造工学68,(1996), 1069)は, 鋳鉄の基地組織に関しては, パーライト, フェライト, ベイナイト, マルテンサイトの順に減衰能が高くなることを示しています.
 制振材料はその機構により, ①複合型②強磁性型③転位型④双晶型の4種類に大別されています. 複合型とは母相と第二相とからなる合金で, その境界における粘性流動または塑性流動によって, 振動エネルギーを吸収する材料です. 鋳鉄は複合型に分類されます. 高減衰材料の例については, 先ほどの栗熊氏の解説を参考にして下さい.

(『鋳造工学』96巻1号掲載)