鋳鉄溶湯の熱分析で得られる冷却微分曲線で,凝固終了時の傾きがマイナスからプラスに転じる点の角度θが小さいほど引けにくい溶湯だという文献がありますが,この理屈が良く分かりません.どういった理由で角度θが小さいと引けにくい溶湯だと言えるのでしょうか?

θが小さいことは熱電対を挿入した部位の熱伝導率が小さいことを意味しており,熱伝導率が小さくなる原因は,ひけ巣(空洞)の存在と考えられています.なぜ冷却速度曲線(冷却微分曲線)にθが表れるのかという点からもう少し詳しく説明します.鋳物の冷却速度は主に発熱(凝固潜熱放出など)と抜熱(鋳物から鋳型への伝熱)の差で決まります.凝固や相変態が無いときの冷却速度は時間とともに遅くなります.すなわち,冷却速度曲線の傾きはプラスになります.一方,凝固中は発熱があるため発熱速度の影響を受けます.凝固末期によく見られるように発熱速度が急に小さくなると冷却速度は大きくなり,冷却速度曲線の傾きは小さくなります.共晶合金や純金属のように潜熱放出が狭い温度範囲で生じる場合はこの傾向が強く,冷却速度曲線の傾きはマイナスになるのが一般的です.以上のように凝固潜熱の放出が終わる時期に鋳物の冷却速度は大きく変化するのでθが表れます.そして,ひけ巣が発生した部位では熱伝導率が小さくなるので,冷却速度曲線の傾きは凝固末期の凝固前後で小さくなりθが大きくなると考えられています.

<参考文献> 菅野 利猛, 岩見 祐貴, 姜 一求: 鋳造工学 89 (2017) 332.

(『鋳造工学』91巻4号掲載)