青銅よりも黄銅の方が湯が回りやすいのはなぜですか?

黄銅系の合金は凝固温度範囲が狭く,表皮形成型の凝固形態となり,青銅系の合金は凝固温度範囲が広く,粥状の凝固形態となることが知られています.表皮形成型の凝固形態となる合金では,流動中に鋳壁から凝固層が成長し,流路を閉塞することで流動が停止します.一方,粥状の凝固形態となる合金では,流動中に溶湯先端が冷却され固相が晶出し,その固相が流動限界固相率(おおよそ20~50 %と言われています)に到達すると流動を停止します.

これらの合金の流動性を半定量的に検討しましょう.表皮形成型の合金において,凝固層が流路を閉塞するまでの凝固時間をtfと表わしますと,粥状凝固形態を示す合金において溶湯先端が限界固相率になるまでの時間は0.2tf~0.5tfと表されます.溶湯の流速を一定値vとしますと,表皮形成型の合金の流動長はLf=vtf,粥状凝固型の合金の流動長はLf=0.2vtf~0.5vtfとなります.このことから表皮形成型の合金は,粥状凝固の合金と比較して2~5倍の流動長となることが分かります.このため,粥状の凝固形態を示す青銅合金よりも,表皮形成型の凝固形態となる黄銅合金の方が湯が回りやすいのです.

(『鋳造工学』91巻5号掲載)