FC材にTiを添加してフッシャー欠陥対策をすることがあるのですが,同時に硬度が低下することが多々あります.このメカニズムとして私の中では,Nがセメンタイトを安定化しているが,Ti添加によりTiNを形成し(エリンガム図的に窒化物を形成するのが安定な為),Nによるセメンタイト形成が抑制されるためと理解しています (TiNは軟らかいという認識) .この理解が正しいのか(今わかっている中で最も確からしいか)お伺いしたいです.
片状黒鉛鋳鉄へのチタン添加で生成する化合物は窒素量とチタン量で変化することが知られています.TiとNの原子パーセント比(Ti/N)が1以下であれば,TiN,1~4ではTiNとTiC,4以上であればTiCが生成するという報告があります(上田俶完: 鋳物 32 (1960) 696).この論文では,Ti/Nが1~4の範囲では鋳鉄の硬さが低下することも示されております.このときの金属組織はA型黒鉛に加えてD型黒鉛も少し形成し,D型黒鉛の周辺でフェライトが生成します.フェライトが生成した場合,硬さ低下の要因のひとつとなります.
フェライトが生成しなくてもチタン添加によって硬さが低下すること場合があり,窒素による硬さ向上のメカニズムから考えることができます(岡田千里: 鋳物 47 (1975) 688).窒素量の増加による硬さの向上は,チル化していなければ窒素による基地の硬さ向上が大きな要因となります.窒素はパーライト安定化元素であるため,窒素量の増加はパーライト量の増加につながります.また窒素量が多いとパーライトそのものの硬さも向上することが報告されています.パーライトの増加と硬さ向上は,オーステナイトに固溶する窒素の影響であり,TiNが生成するとその固溶窒素量が減少することで,基地の硬さ向上の効果が小さくなります.これらのことから,片状黒鉛鋳鉄へのチタン添加による硬さ低下の主要因は基地の硬さ低下によるものと考えられます.
(『鋳造工学』97巻3号掲載)