ダクタイルはFCにくらべて,なぜ,ひけやすいのでしょうか

鋳鋼やアルミニウムなどは,凝固収縮を補うために大きな押湯を必要とします.しかし,鋳鉄では黒鉛晶出による体積の増加があるので,基地(鉄)が凝固時に収縮しても,それを上回る程度の膨張があって,そのためにひけがない,あるいは発生しにくい,ということは比較的納得しやすいと思います.この欄でも86巻3号(2014年3月号),4号などでこれに関することが述べられています.

 この考え方によれば,ダクタイル溶湯とFC溶湯で,炭素量(より詳しく言えば,晶出する黒鉛量)が異なるのであれば,両者でひけ傾向が異なる,ということになりそうです.

 しかし,一般的な炭素量は,鋳物の大きさや強度によって多少の違いはあるにしても両者で数%以上も違うことはないでしょう.FCでは高強度材で炭素量を少なくすることもあるし,ダクタイルの小物品では共晶付近の炭素量とすることが多いでしょうから,そういうときはむしろ逆になるか,せいぜい,ひけ傾向は同じ,ということになりそうです.

 そこで,もう少し考えると,たとえ同じ晶出黒鉛量であっても凝固過程が異なるとひけ発生状況が変化する,という説明が必要になりそうです.

 「凝固過程が異なる」というのは,漠然とした表現ですが,ダクタイルとFCでは黒鉛の成長速度が異なるので,基地のオーステナイトの凝固状態(固相率の増加の状況)との関係から,全体としてマッシー状態が長く続く(粥状凝固),このためにひけが出やすい,というような説明が一般的にされています.このようなことを調べるために,黒鉛の晶出過程の調査,凝固時の膨張収縮の測定,冷却曲線の測定などの結果が多数発表されています.しかし,実際の鋳物では,これらに加えて鋳型の強度,製品の形状,鋳造方案,溶湯成分や原材料,接種,注湯温度など,さまざまな要因が複雑に絡み合うので,なかなか結論が出にくいらしく,「この指標でひけの傾向を表せば,ダクタイルとFCでこう異なる」とはっきりさせたよい例はあまり見られません.

 このような状況なので,製造現場の感覚では「FCではひけが発生するときは押湯を大きくする程度の対策でよいが,ダクタイルでは単純に押湯を大きくしても,それでひけが止まるとは限らない」ということになるのでしょう.

(『鋳造工学』86巻6号掲載)