アルミダイカストで鋳込み前に金型内に水分(H2O)が残っており、鋳込み時にそれが鋳物に内包されたとします。その場合ガス成分分析機にかけた場合、成分としてはどのように検出されるのでしょうか? ガス成分結果としては「H2,O2,N2,CO,CO2,CH4,C2H4,C2H6」が検出されますが、H2Oが分解されて他の元素と反応するのでしょうか?
工程別に発生原因を見てみます.
- 給湯
通常使われているチップ潤滑剤は,黒鉛入りの油性のものが多く使われており,この油性の成分が給湯の際にアルミニウム溶湯に触れ,ガス化されます.給湯口で燃える現象を確認できます.このガス化したものが,H2,CO,CO2,CH4,C2H4,C2H6となります.
- 射出,金型キャビティ充填
給湯時に発生したガスと大気中の空気N2,O2,CO2を同時に巻き込んで充填されます.
通常,水は,かなりの温度にならないとH2とO2に分解されませんが,アルミニウム溶湯と反応すると,H2ガスとO2ガスになります.そのため,金型内の水分は,アルミニウム溶湯と反応し,H2ガスとO2ガスになります.このH2ガスはアルミニウム溶湯に溶解します.O2ガスの一部はアルミニウム溶湯と反応し酸化物を生成します.また,一般的な水溶性離型剤の場合,水で希釈されているため,離型剤の残留した水分もアルミニウム溶湯と反応しH2ガスとO2ガスなります.このH2ガスも同様にアルミニウム溶湯に溶解します.離型成分の油脂類は少量のため,ガス成分分析では検知されないかもしれません.
- 溶湯の凝固時
アルミニウム合金の場合,溶湯の水素溶解度は大きいのですが,固体の水素溶解度は非常に小さいため,そのほとんどが凝固時にH2として放出されます.
結果としてダイカスト品のガス成分分析を行うとH2,O2,N2,CO,CO2,CH4,C2H4,C2H6,が検出されることになります.チップ潤滑剤も水溶性のものを使うことでCO,CO2,CH4,C2H4,C2H6の量を減らす(検出されなくなる)ことになると思われます.
(『鋳造工学』94巻2号掲載)