学会表彰のひとつである「日下賞」は,今後の活躍が期待される若手の研究者・技術者に贈られる賞です. 2025年度に受賞された方々の研究内容や今後の目標等を紹介するシリーズの第3回目は株式会社宇部スチールの宮本諭卓さんです.

 (株)宇部スチールの宮本と申します.この度は(公社)日本鋳造工学会 日下賞を賜り,光栄に存じます.ここまで導いてくださった諸先輩方,共同研究者の皆様,そして日々現場で議論を重ねてくれる会社の仲間に心より感謝いたします.

 受賞対象となった研究は,球状黒鉛鋳鉄の凝固中に起こる「膨張」と「収縮」を同時に見据え,引け巣がどこに,どの程度生じるかをより現実に近い形で予測する試みです.鋳造欠陥は教科書どおりにいかないことが多く,現場で「なぜこのようになったのか?」を突き詰めるたびに,現象を正しく捉えるモデルの必要性を痛感してきました.膨張収縮の挙動を丁寧に組み込み,解析と実鋳込みの往復で確かめることで,対策の打ち手が,経験則からくる【勘】からそれを説明できる一つ【選択肢】に近づく手応えを得ています.

図1 ロンギヌスの槍と学会中四国支部メンバー

 私は近畿大学大学院で鋳造に出会い,旗手稔先生のもとで修士課程を修了し,宇部スチールへ入社しました.その後,東北大学大学院にて故・安斎浩一先生のもとで博士課程を修了しました.研究の厳しさと面白さ,そして現場の制約の中で価値を出す難しさを,両方の立場で学べたことが今の私の土台となっています.近年は,ときわ公園の「ロンギヌスの槍」のように,鋳造が文化や地域とつながる仕事にも関わりました.鋳物は一つの素形材でありながら,同時に人の記憶に残る『かたち』にもなり得るものであると実感しています.

 これからAIやヒューマノイドロボットが普及しても,ものづくりの価値は薄れないと思います.むしろ,計算や自動化が進むほど,現場で起きている現象を自分の目で見て,手で触れて,言葉で共有できる人の重要性は増します.解析は便利ですが万能ではないので,現場の経験を整理し,誰が見ても再現できる形に残し,次の世代がさらに高みに進める状態を作りたいと考えています.今後の研究も,最終的には品質の安定だけでなく,無駄な試作や手戻りを減らし,有限な資源と時間を大切に使うことにつなげていきたいと思っています.

 最後に,この記事を読んでいる超若手の皆さんに伝えたいこととして,失敗を恐れず現場の「違和感」を大切にしてほしいです.違和感は,次の改善や研究の入口になります.私自身,鋳造と出会えた幸運に感謝しつつ,学術と現場をつなぐ仕事を一歩ずつ積み重ね,学会活動を通じて鋳造の魅力を次世代に伝えてまいります.

連絡先
株式会社宇部スチール
事業本部 技術開発課
宮本 諭卓
〒755-0096 山口県宇部市小串沖の山1978の19