接種するとチルが消えるのはどうしてですか? さらにCrなどが高いとチルやひけ巣が出やすいのはなぜでしょうか?
鋳鉄は,二種類の共晶凝固の形態をとることが知られています.一つが鉄-黒鉛系で,もう一つが鉄−セメンタイト系です.
普通鋳鉄の場合,黒鉛系の共 晶温度の方がセメンタイト系より高いのですが,その差はあまり大きくなく,凝固時に少し過冷すると,セメンタイト共晶の温度に達しセメンタイトが晶出しま す.チルとは鋳鉄の凝固時に晶出するセメンタイトのことで,冷却速度の大きい薄肉部などによく現れます.
セメンタイトが晶出した鋳鉄は,硬く脆いので,セメンタイトを晶出させないように接種します.接種の効果としては,核生成の促進があり,共晶セル と呼ばれるオーステナイトと黒鉛からなる成長単位の数が増えます.接種により,あまり過冷することなく凝固しますので,セメンタイトが晶出しにくくなり結 果としてチルが消えます.
またクロム(Cr)が鋳鉄中に入ると鉄−セメンタイト系共晶温度が高くなり,鉄-黒鉛系共晶温度が低くなります.従いまして,ゆっくりとした冷却 の場合でもセメンタイト共晶の温度に達し,セメンタイトが晶出します.セメンタイトやクロム炭化物は,黒鉛に比べると密度が数倍大きいので,凝固時の収縮 が大きくなり,ひけ巣が出やすくなります.逆に言うと,他の金属材料に比べて黒鉛の晶出する鋳鉄はひけ巣が出にくい特殊な材料であるとも言えます.