アルミ合金鋳物を熱処理するとなぜ硬くなるの?

 凝固点直下の高温で合金を保持すると,Alの結晶構造の中にCu,Mg,Si等のような他の合金元素の原子が均一に溶け込んだ“固溶体”状態になっています.このような状態にすることを“溶体化処理”と呼びます.この状態からゆっくり冷却すると,溶けきれなくなった合金元素が,CuAl2,Mg2Siなどのような安定した,光学顕微鏡でも観察できる程度の若干大きな結晶を形成し,Alの結晶構造の一部にこれらの結晶が分散した状態(“析出”状態)になります.この状態では析出物が大きいため合金はあまり強化されません.

 ゆっくり冷却せずに,高温の固溶状態を水中への急冷処理(焼入れ)等の手段により室温まで同様の固溶状態を持越す処理を行います.この状態にされた材料を過飽和固溶体といいます.この後,図1に示すように,常温~200℃程度の温度に数時間~数日間(工業的には数時間)保持することにより,アルミニウム合金中に溶けている元素が微細に析出し,この析出物が転位の動きを止めるため,強度を高めます.このように合金が硬化する現象を“時効硬化”現象といい,このような処理を“人工時効処理”と呼びます.この現象を利用して,熱処理による強化を行っています.更に処理時間を長くすると安定した析出状態になり,軟化します.最高硬さ以前を“亜時効状態”,以降を“過時効状態”と呼びます.

88-5_QA_Fig1

 アルミニウム合金鋳物で利用される代表的な熱処理とその記号,概要を以下に記します.

F :鋳造のまま

T4:溶体化処理後焼入れし,室温で自然時効処理を行う処理.

T5:人工時効処理だけを行い,若干強度を向上させたり寸法を安定化したりする処理.

T6:溶体化処理後焼入れし,人工時効処理をして最高強度の状態を得る上記説明の処理.

T7:T6と同様な処理を施すが,内部ひずみの減少,寸法安定化,高温特性の安定化等を目的とし,人工時効処理を若干高温あるいは長時間行い,過時効状態とする処理.

(『鋳造工学』第88巻第5号掲載)