鋳造品は欠陥があって当たり前というものなのでしょうか?

 「欠陥」という言葉の定義が曖昧ですが,「破壊の起点になる可能性があるもの(「きず*」)」と考えると,たとえ非常にミクロ的な格子欠陥,非金属介在物(酸化物,硫化物,炭化物など),微細なき裂やひけ巣でも,それが破壊の起点になり得ないとはいえません.そういう意味では,全ての構造材料に「きず」があります.特に鋳造品は下記のような鋳造という加工工程上,どんなに精緻に造られたとしても外面あるいは内部に微小な「きず」が存在しています.

 さて,鋳造品と限定されているので,鋳巣やざく巣のような内部きずの生成について簡単に説明します.ご存知のように,液体の密度(g/cc)は温度上昇に伴い低下します(水のような例外もありますが).即ち分子運動が激しくなるので体積膨張が起こるからです.金属あるいは合金の溶湯に於いても同様です.鋳型に鋳込まれた溶湯は,鋳型壁と接する外側から凝固を開始します.即ち鋳物の殻をつくり,次第に厚くなって最終凝固に至るのですが,その過程で殻に閉じ込められた溶湯(液体)は,温度低下に伴う体積収縮と凝固収縮が進行して体積が減少することになります.したがって,凝固時に収縮量を補う膨張が無ければ内部きずが生成されるのは,当然のことと理解できます.同時に溶存ガスを吐き出しその分膨張するが,系外に吐き出すことが出来ないので内部にガス穴(ガスポロシティー)ができます.鋳造関係者は,これらを無くする,無くせなくとも無害化することに日夜取り組んでいます.たとえば,砂型では冷し金,金型では部分的加熱・冷却,ダイカストのような高圧鋳込みなどがあります.さらに化学組成の最適化,鋳込み温度の管理,凝固・湯流れシミュレーションによる湯口系の設計,砂型強度の改善,添加剤(脱酸剤,脱窒素剤),機械的撹拌などの溶湯のガス抜き,凝固形態を変化させる添加剤(Na,Sr,Ti,Bの単独あるいは複合で含有する処理剤,黒鉛球状化剤や接種剤など)などについての研究開発により,内部きずを実用上問題の無いところまで制御できるようになっています.

気泡の無い氷を作るような指向性凝固を鋳造品の特性をつぶすことなく可能にする3Dプリンターによる積層鋳造法の確立に注目したいと思います.

注)きず:非破壊試験/検査に於いては,評価基準に従って有害とみなされたきずを欠陥と定義しています.

*「きず」とは, 設計された使用条件で破壊する「有害なきず=欠陥」と「無害なきず」があり,これらを分けて考えることが必要です.

(『鋳造工学』90巻1号掲載)