ねずみ鋳鉄FC300にはSnを添加し,球状黒鉛鋳鉄FCD700にはCuを添加して製造しています.それぞれ高強度にするために,パーライト量を増やす目的なのでしょうか.逆に,ねずみ鋳鉄にCuを,球状黒鉛鋳鉄にSnをそれぞれ添加しても問題ないのでしょうか?

高強度にするためにねずみ鋳鉄または球状黒鉛鋳鉄にSnまたはCuをそれぞれ適量添加し,ほぼオールパーライトにすることが目的です.

 逆にねずみ鋳鉄にCuを,球状黒鉛鋳鉄にSnを添加しても問題ありません.

生産上高強度FCにはCu単独添加はほとんどありませんが,Mn,Crなどのチル(セメンタイト)化促進元素と併用するケースがよくあります.また,FCD450相当の球状黒鉛鋳鉄にSnを一定量(例えば0.07mass%程度)入れるとほぼパーライト基地が得られるので,高強度になります.

 ねずみ鋳鉄のパーライト量に及ぼすCu添加の影響についてもう少し付け加えると,球状黒鉛鋳鉄に対してはCuがパーライトを促進することになりますが,一方でFCにおいては近年の研究報告1)によるとCuがフェライト化を促進する元素であるとの実験結果があり,FCの高強度化にはCuの単独添加は必ずしも効果的ではないことが示唆されています.詳細は中江らの論文1)をご参照いただきたいと思います.

 球状黒鉛鋳鉄を高強度化するためにSnを添加する場合,0.1mass%以上の添加は避けるべきです.特にSnは結晶粒界に偏析しやすく,また,伸びと衝撃値の低下にも繋がってしまうので,適量の添加及びCuなどとの併用が効果的です.

1)鄒 瑩,駒田賢一,中江秀雄:鋳造工学 83(2011)378

(『鋳造工学』91巻11号掲載)