生型砂の‘ねかせ’時間は2時間ほどといわれていますが,2時間で何が起こっているのでしょうか?
生型砂の粘結材であるベントナイトは,水を吸収し膨潤することで粘結力を発揮します.ベントナイトを水に投入し自然に膨潤するには数時間という時間を要するため,物理的に力を加える混練(ねり作用)が行われて使用されます.混練は3~5分で終了し,混練機から排出され造型機に送られます.混練砂を直接造型機に送らずに一旦貯蔵することを‘ねかせ’と称しています.貯蔵する時間によって,フル・テンパー,プレ・テンパー,アーフター・テンパーの3タイプに分類されます.生砂の‘ねかせ’時間は2時間ほどといわれているのは,一般の感覚的な話であり,理論的な裏付けはありません.
混練された生型砂の水分は,図1に示すように粘土層内に存在する位置によって,自由水,付着水,吸着水に区分されます.図2の左半分は鋳込み後回収された戻り砂を右半分は混練された生型砂の粘土層における水分濃度を模式的に示したものです.戻り砂の粘土表面層は乾燥して内部に多少水分が残っている状態を示し,混練砂の粘土表面層は水分濃度が高いことを示しています.水分は砂粒の粘土層表面上の自由水から付着水の状態になり,さらに粘土層の粒子間隔に吸いつけられている吸着水(層間自由水)となり,ベントナイトの粘結層に存在しています.吸着水として取り込まれた水が粘土の粘着力となります.更に固相の中に強い結合力で引き入れられると収着水(層間結合水)や結晶水(OH型)となります.
3~5分混練した生型砂の水分の多くは,この自由度の高い自由水および付着水の状態で存在していると考えられます.この砂を‘ねかせ’ることで,自由水および付着水の状態から吸着水となり,徐々に熟成度が進むと考えられます.貯蔵する時間が長ければ,収着水や結晶水のかたちに進み,更に安定した生型砂が得られます.熟成した砂はしっとりとこしがあり水分が高そうで実際の測定値は低く,造型すると流動性が意外とよく均一にしまります.生型砂の熟成度が進むにつれて,生型砂の湿態性質であるCB値,水分,圧縮強度,SSI,通気
度等が安定します.
(『鋳造工学』91巻1号掲載)