銅合金溶湯の脱酸にCu-P合金が使われますが,なぜ脱酸が出来るのでしょうか?

銅合金の溶解は,通常弱酸化性雰囲気で行われるので,溶湯中に溶け込んだ酸素[O]が存在します.この状態で凝固が進行すると水素と結びついて鋳塊中に水蒸気ガス気泡を形成する場合や,易酸化性金属元素と結合してその金属酸化物となって鋳造品の品質を大幅に低下させます.そのため,溶解段階で溶湯中の酸素を取り除く処理が,品質向上のための重要な工程となります.

溶湯中の酸素を除去するには,合金元素より酸素との親和力の強い元素Al・Si・Be・等(各種便覧に酸化物生成自由エネルギー図として掲載されていますのでご参照ください)を加えて系外に除去してやることが有効です.しかし,酸素との親和力の強い元素P以外の元素では,溶け込んだ酸素がその元素の酸化物[MxOy] の形で溶湯中に残留するので,酸素を取り除いたことにはなりません.純銅系及び青銅系合金において,Pを添加した場合は,脱酸生成物のPO5が350℃で昇華して溶湯から蒸発してくれるため,完全に酸素を取り除く事が出来ます.但し,過剰なPを添加した場合,凝固温度範囲が広くなるので,適度な量を加えることが重要です.

他の銅合金(銅-アルミニウム系,および銅-黄銅系)は,銅より酸素親和力の強い元素が合金元素として含有されているので脱酸の必要性はありませんが,溶湯中に懸濁して存在している酸化物を除去する為フラックス処理が必要です.

(『鋳造工学』92巻2号掲載)