光学顕微鏡で炭素鋼を観察すると黒と白の模様が現れます.どうしてフェライトは白く,パーライトは黒い縞なのでしょうか.

 組織観察を行うためには,一般に落射照明による明視野の光学顕微鏡(金属顕微鏡)を用います.試料を鏡面研磨した状態で光学顕微鏡で観察しても金属組織は現れません.試料表面に当たる光が均一に反射されるためです.そこで組織を見るためには,結晶の構造によるわずかな反射の違いによるコントラストをつけるために,試料に微細な凹凸をつけることが必要です.この作業を「腐食(エッチング)」と言います.図1(a)に示す一様なフェライト組織を腐食させて観察すると,同じフェライト組織でもわずかに濃淡が見られます.これは,フェライト組織が一様に腐食されるのではなく,フェライトの結晶方位の違いにより腐食の程度にわずかな差が生じ,表面状態がわずかに異なるためです.腐食量のわずかな高低差による影が,結晶粒界として観察されます.


図1 エッチング後の組織観察

 

 一方,パーライト組織とは,軟らかいフェライト相(α-Fe)と硬くて脆いセメンタイト相(Fe3C)の共析組織です.パーライトにおけるフェライトとセメンタイトの割合は,およそフェライト89mass%,セメンタイト11mass%ですので,薄いセメンタイト層の間にフェライト層が存在することになります.図1(b)に示すように,エッチングを施すとセメンタイト相よりも腐食しやすいフェライト相が優先的に腐食され,パーライト組織ではセメンタイト相が山に,フェライト相が谷になります.低倍率の光学顕微鏡でこれを観察した時,パーライト相はセメンタイト相の影により黒灰色または層状に見えます.高倍率で観察すると,パーライト相のフェライト層もセメンタイト相も反射して白っぽく見えますが,黒い縞模様が観察されます.この黒い縞模様は層になった凸状のセメンタイトの影を見ていることになります.

(『鋳造工学』92巻6号掲載)