パーライト組織はフェライトとセメンタイトが層状となっていますが,組織中のフェライトとセメンタイトは初析のフェライト,セメンタイトと同じでしょうか?
ある炭素鋼がA3またはAcm変態点以上の温度かつ,組織は全てγ相(オーステナイト相)であり,ここから徐冷を行うとします.冷却が進み,亜共析鋼(0.77wtC%未満)の場合,A3変態点に達すると,フェライト相が過共析鋼(0.77wtC%より多い)の場合,Acm変態点に達するとセメンタイト相がオーステナイト相から析出し始めます.これらの組織を初析フェライト,初析セメンタイトと呼びます.ここから更に冷却が進み,A1変態点(約727℃)に達すると,オーステナイト相からパーライト組織(フェライト+セメンタイト)へ共析変態します.
具体的にFe-Fe3C系平衡状態図で説明します.亜共析鋼(0.77wtC%未満)の場合,A3変態点からA1変態点の間で析出する初析フェライトは,温度の降下と共に成分が若干変化します.この時の初析フェライトに含まれる炭素量は,極めて微量ですが温度の降下と共に増加します.そして最終的にA1変態点に達した際の初析フェライトの成分は,0.02wtC%となります.また, A1変態点での共析変態によって現れるパーライト中のフェライトの成分は 0.02wt%となります.A1変態点以下の温度では, 含まれる炭素量は極めて微量ですが温度の降下とともに減少し,最終的には0wtC%のフェライトになります.初析フェライトもパーライト中に含まれるフェライトも炭素量は0〜0.02wtC%の間で変化しますが,微々たる差なので初析フェライトとほぼ変わらないと言っても差し支えありません.
一方,過共析鋼(0.77wtC%以下)の場合,Acm変態点からA1変態点の間に析出する初析セメンタイトは,炭素の固溶量が決まっておりますので,常に6.68wtC%となります.温度が降下してもこの成分が変化することはありません.そして, A1変態点での共析変態後に現れるパーライト中のセメンタイトも同様に,亜共析,過共析にかかわらず常に6.68wtC%となります.
(『鋳造工学』93巻5号掲載)