引け巣もチル(遊離セメンタイト)も凝固完了までに発生します.チルが出ると引け巣が出やすくなります.「どうしてか?」を以下に説明します.

鋳鉄の溶湯は,溶媒が鉄で溶質が炭素の溶液です.溶液の温度が低下すると溶質の溶解度が下がり溶質が過飽和になり晶出 します.即ち,鋳鉄の溶湯から炭素が吐き出され,非金属の黒鉛(炭素の結晶)として晶出します.結果,高温の鉄(固体)であるオーステナイト中に黒鉛が3 次元に分散した鋳鉄(複合材料)が出来上がります.

溶湯の化学組成により初晶は異なりますが,共晶温度で共晶組成になった残湯の炭素濃度は同じ (CE=4.3%)です.この残湯がFe-G(安定)系あるいはFe-FeC(準安定)系で共晶凝固するのです.共晶凝固開始時の溶湯の炭素濃度は飽和状態にあるのですが,過冷や接種によるサイト(異質核,異質液体,ガスなど)やSi%のゆらぎ(濃淡)などにより過飽和になり,安定系では黒鉛,準安定系ではFeCがオーステナイト(CE≒2.0%)とともに同時進行で晶出し,凝固完了になります.

凝固は外側から始まり,それが容器になります.この容器の中にはまだ溶湯(液体)が残っています.液体は,温度が下が ると体積が減少します(液体収縮:1.5%/100℃).さらに,高温での鉄であるオーステナイトの晶出は,約3.5%収縮(溶鉄の凝固時のそれと同一と みなされるので)します.

一方,炭素は晶出して黒鉛になると,膨張して約3.4倍(ρFeG,溶鉄の密度:ρFe=7.66g/cc,黒鉛は:ρG=2.26g/cc)になります.引け巣は容器内に残った液体・凝固収縮量と膨張量の差と考えられます.鋳鉄以外のほとんどの金属やその合金は収縮だけで凝固します.従って,鋳鉄品は鋳鋼に比べ引け巣が少ないものとなります.

ところで,チルはセメンタイト(Fe3C)とよばれる鉄と炭素の化合物(炭化物)です.前述の炭素が黒鉛として晶出せずに,FeCとして凝固してしまうと,その分膨張が少なくなります.結果として引け巣が大きくなります.

以上,参考にして下さい.

詳しくは,張博ほか共編,川野ほか共著『球状黒鉛鋳鉄:基礎,理論,応用』の押湯無し方案の項をご覧ください.
(この本は絶版ですが、下記URLをクリックし,図書館で探してください.)

http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001613095-00