金属材料の疲労限度を知りたいのですが,簡単に調べる方法はありますか?
一般に疲労限度は,疲労亀裂の発生に起因すると言われており,疲労亀裂の発生は材料のすべりに対する抵抗値(降伏点)に依存することが知られております.疲労試験は多くの試験片本数と試験時間を要するため,疲労限度の簡便な推定方法として,引張強さや硬さから推定することが多いようです.例えば,鉄鋼材料の回転曲げ試験の場合では,疲労限度σ_w(MPa)は下記のように引張強さ"σ" _"B" (MPa)やビッカース硬さHVから推定することができるようです1).
σ_w≅0.5"σ" _"B"
σ_w≅1.6"HV"
これらの式は,引張強さが1100MPa以下,ビッカース硬さで400以下の範囲で成り立つとされています.これ以上の強さや硬さを有する材料の場合,材料中に存在する介在物などの影響を受け,危険側の評価になりますし,誤差も大きくなります.
例えば,鋳鉄の場合,ねずみ鋳鉄では片状黒鉛の切欠き効果による影響を受け,上記の推定式から求めた疲労限度よりもかなり低い危険側の推定となります.一方,球状黒鉛鋳鉄では,基地組織の硬さと疲労破壊の起点の大きさに依存します.基地組織がフェライトなど軟らかくかつ靱性が高く,欠陥の大きさがそれほど大きくない場合,上式でも良好な推定が行えることが報告されています.ただし,上式は基地組織の硬さや欠陥寸法に依存し,ある値を超えると危険側の推定となります.疲労限度は引張強さや降伏点などの静的強度とは直接的に関係づけられるわけではなく,本質的には強化機構(固溶強化や析出強化など)を考慮して検討すべきものであり,そのような式も提案されています2).要は,その材料の疲労特性が推測可能な材料であるかどうかが問題になってくると思います.
疲労限度は試験片寸法や試験条件などの影響も受けることが知られておりますので,安全側の設計を行うのであれば,簡便評価による手法よりも疲労試験を行うのが無難と言えます.
1) 村上敬宜:金属疲労 - 微小欠陥と介在物の影響, 養賢堂, (1993)
2) 阿部隆 ほか:鉄と鋼, 70(1984), 1459
(『鋳造工学』87巻12号掲載)