CV鋳鉄はFC(片状黒鉛鋳鉄)とFCD(球状黒鉛鋳鉄)の両方の特性を持っていますが,あまり普及されていません.どうしてでしょうか?
FCVは,コンパクティッド・バーミキュラ鋳鉄(芋虫鋳鉄)と呼ばれ,高強度のFCD(ダクタイル鋳鉄)と被切削性に優れたFC(片状黒鉛鋳鉄)のイイトコ取りとして注目され,現在量産品では油圧バルブ,ディーゼルエンジンブロック,フライホイール,エキゾーストマニホールド,高級鍋にも使われていますが,生産量が伸び悩んでいます.その理由は下記4項目にあると思われます.
1.材質の正しい理解とそれにあった設計ができていない
部品の要求品質を設計者が高強度と被切削性の両方を過度に期待すると,強度イマイチなのに切削性が悪いという事になります.つまり材料の特性を十分知ったうえで適材適所設計しないと結果的に不満が残ります.
2.製造条件の難易度が高い
注湯前にS wt.%を把握し,それに応じた球状化剤を毎回調整する必要があり,このさじ加減を誤ると,グラファイト形状が球になりすぎたり,片状になり過ぎたりする.つまり,フィード・フォワード管理が必要となり,この管理が面倒です.
3.品質保証が難しい
工程内検査では,通常行っているφ20テストピースでの全鍋ロット毎チェックが必要となります.さらにフェーディング時間が短く注湯時間制限があるので,出荷検査では量産品のエンジンなど重要部品の出荷品は,全数超音波測定による保証を行っている会社も有るが,費用対効果的には売価の高いものしか成立しません.
4.意外に知名度が低い
設計者が材料を選定する際,FCVの存在を知らずにいることが多い.薄肉にしてアルミ部品からの呼び戻しも可能です.このため鋳物屋から積極的に開発提案型で顧客に積極的に売り込むことも必要です.
(『鋳造工学』90巻3号掲載)