Vol.93No.10 九州支部YFEの活動紹介

 九州支部でのYFE活動は,「子供いもの教室」と「学生工場見学会」をそれぞれ年に1回ずつ行っていますが,昨今のコロナ禍の中ではイベント開催がままなりませんでした.そこで今回は高校生への啓蒙活動という観点で,8月に行われましたオンラインオープンキャンパスでのデモ実験について報告します.

 

 多くの対面イベントが中止となるなか,大学や高専のオープンキャンパス(以下O.C.)も昨年に引き続きオンラインでの実施となりました.今年度,九州大学では企画の一つとして,オンラインでのデモ実験ライブ配信を行うことにしました.それに加えて事前に実験紹介動画を作成し,当日の高校生との座談会での紹介や,O.C.後に順次Youtubeで公開することとしました.コロナ禍以前のO.C.では学生実験室に4研究室がそれぞれブースを構え,そこに高校生を招き入れて一研究室5分ほどでデモ実験を行い,ブースを巡回してもらうという方式をとっていました.延べ500名程の高校生に見てもらっていましたが,回転が速いために実施内容も限られていました.しかし今年度は動画での紹介と午前・午後に1回ずつのライブ配信ですので,速さを気にする必要がありません.また,例年では紹介できない実験室の装置も動画で見てもらうことができます.そこで,構成・実演は全て修士1年の学生に任せ,ライブ配信と動画作成に向けた準備を7月上旬から始めました. 

図1 動画用に鋳込んだ錫合金ブロックとSUS316Lの積層造形体

  

 まずは動画作成です.専攻担当者からの「5分に収まる動画を」という注文に対し,学生たちが考えた動画の流れは,最初に凝固・鋳造についての簡単な説明を行い,次に錫合金を用いた簡易砂型鋳造を実演,最後に金属3Dプリンタでの造形の様子を見せる,というものでした.一つ目についてはパワーポイントでスライドを準備し,二つ目は「九大材工」という文字が浮かび上がった型を樹脂用3Dプリンタで作製しました.3つ目についてはホイールギアを造形することとしました.5分の動画に対して撮影は2時間かかりましたが,後日編集された動画を見るとその甲斐あったな,という仕上がりになりました.

 

 ライブ配信企画は事前に高校生からの参加希望を募り,希望した生徒にはZoomで参加してもらいました.それとは別にZoomでの様子をYoutubeでも配信する,という形をとりました.やはり九州地区からの参加が多かったですが,中には北海道から参加してくれた高校生もおり,オンラインならではだな,と思いました.実施方法は例年の対面方式を踏襲して,学生実験室に設けた4研究室の実験ブースをカメラ・マイクと司会が順に巡るというものです.各研究室の持ち時間は10分ほどで,デモ実験の後にはオンラインで参加した高校生から質問を受けます.実験室とは異なり大型装置を持ち込むことができないため,金属3Dプリンタはディスプレイを用いての紹介にとどめ,代わりに塩化アンモニウム水溶液の鋳造を実演することにしました.これは前面・背面をガラス板で,側面・底面を水冷銅とした鋳型に注湯し,マクロ凝固組織を目視で,塩化アンモニウムのデンドライト形状をデジタルマイクロスコープで見せる,というものです.学生たちも緊張していたのか,午前の1回目の配信では冷却水が流れておらず,「あれ,全然凝固しませんね?...あ!!」というハプニングもありましたが,午前・午後の2回の配信を無事(?)に終えることができました.高校生からは「塗型材そのものの研究もするのですか?」,「実験装置は自分たちで作るのですか?」といった質問が寄せられていました.

図2 ライブ配信直後の学生の様子

 

 流れ作業で多数を相手にするコロナ禍以前のO.C.では,なかなか「こども鋳物教室」のような密度の濃い「体験」を提供できませんでした.一方で,オンラインで実施した今回は例年よりも濃い内容を提供できたように思います.早期のコロナ感染症の終息を願ってやみませんが,高校生たちに鋳造を紹介していく機会としては今回のオンライン化は考えさせられるものがありました.

 

 

連絡先

(公社)日本鋳造工学会 九州支部YFE
森下 浩平
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
九州大学 工学研究院 材料工学部門
TEL:092-802-2956
E-mail:morishita(at)zaiko.kyushu-u.ac.jp
*(at)を@に変えて送信ください.