学会表彰のひとつである「日下賞」は,今後の活躍が期待される若手の研究者・技術者に贈られる賞です.2024年度に受賞された方々の研究内容や今後の目標等を紹介するシリーズの第2回目は青山学院大学の田崎良佑さんです.

この度,日本鋳造工学会 日下賞という名誉ある賞を頂戴し,大変光栄に存じます。私の研究テーマである「鋳造ロボットシステムの知技能実装に関する研究」は,鋳造現場における生産性向上や品質安定化を目指し,熟練技術者の技能をロボットに実装することで効率的かつ安定した生産体制を実現しようとするものです.鋳造プロセスは,材料の温度や流れ,熱管理,機械の設計といった複数の要因が絡み合い,製品の品質や生産効率に大きな影響を与える複雑な工程であるため,従来は「人でなければできない」という考えが一般的でした.しかし,現場での熟練労働者不足が深刻化するなか,AIとロボット技術を用いて自動化と省人化を進め,鋳造業界の将来に貢献したいと考えています.

図2 精密な研削加工と組立工程

図1 液体マニピュレーション

 

 

 

 

 

私の研究では,鋳造現場において知能と技能の両方を備えたロボットシステムの構築を目指しています.ここでいう「知能」とは,認知・判断・学習の能力を指し,技能は実際の作業や操作を正確に遂行する能力です.これにより,搬送や注湯,研削,組立,塗布といった工程の多くが自動化され,高速化が実現できます.具体的には,鋳型の造形や搬送,溶湯の流し込みなど,従来は熟練技術者が優れた感覚と豊富な経験に頼っていた工程を,複数のセンサーとAIによってリアルタイムで最適化するシステムを開発しています.これにより,鋳造プロセスの複雑な調整が自動化され,均一で高品質な製品を安定的に供給することが可能になります.また,こうしたシステムは熟練者の技能を次世代の技術者へと伝える基盤にもなり,鋳造分野における知識継承の手段としても期待されています.

さらに,私は過去の研究テーマとして「プレスキャスティング鋳造法のモデリングと制御」にも取り組んでまいりました.プレスキャスティング鋳造法では,金型内での圧力制御が製品の品質を左右する重要な要素であり,精密な制御技術が必要です.私は複数のシミュレーションモデルと制御アルゴリズムを活用し,圧力を最適化することで,鋳造工程の効率化と安定した品質の実現を目指しました.この研究経験から,鋳造プロセスにおけるモデリングと制御の重要性を学び,それが現在の「知技能実装」研究においても大きな知見として活かされています.

図3 高速3D造形の適応制御機能

今回の受賞にあたり,これまで私の研究を支えてくださった多くの方々に感謝申し上げます.特に,知技能ロボティクス研究室の学生の皆さんが見せてくれた熱意と果敢な挑戦には,深い感謝の気持ちを抱いております.また,生産プロセスやシステム制御,ロボティクスの統合的な研究において,多大なご指導を賜りました寺嶋一彦先生と野田善之先生には,深く感謝申し上げます.この栄誉を糧に,今後も鋳造分野の発展,ひいては機械工学・ロボット工学の発展に貢献できるよう尽力してまいります.

連絡先
所属 青山学院大学 理工学部 機械創造工学専攻
田崎良佑
〒252-5258 神奈川県相模原市中央区淵野辺5-10-1
TEL:042-759-6209
E-Mail:tasaki_s(at)me.aoyama.ac.jp*(at)を@に変換してください